仕事も家庭も恋愛も「もっとよくなりたい」には終わりがない。終わりなき悩みを抱えるあなたへ『ライティングの哲学』 

悩みを抱える女性のイメージ画像
by Julia Caesar

引っ越しを機に、9年くらい使っていた無印の折りたたみ式パイン材デスクを、KANADEMONOというメーカーのサイズをオーダーできるデスクに変えてみた。無印のデスクが80×50cmだったのに対し、今度は100×70cmである。タテとヨコを20cmずつ拡張しただけといえばそうなのだが、結論からいうと、「でかいデスクは正義!」と叫びたくなるほど大満足。

仕事用とプライベート用で両方置きたい2台のMacBook、キーボード、マウス、飲み物、メモ帳を兼ねた分厚い日記帳、iPhone、ハンドクリームや目薬やのど飴などなど、必要なものをすべてどーん!と広げっぱなしにできることの解放感といったらない(ただし広げっぱなし状態の見た目は良くないので、別途外付けできる引き出しを買おうかと思っている)。お値段は無印が6000円くらいだったのに対しKANADEMONOは5万円もしたのでほとんど10倍になっているが、それでも、本当に買ってよかった。

思えば、コロナ禍によって海外旅行を禁じられた私が2020年以降お金をかけてきたものは、とにかく「デスクまわり」だ。最初にPCスタンドを買い、次にハーマンミラーのワークチェアを買い、フットレストを買い、キーボードとマウスを揃えた。私の部屋の中で、デスクまわりだけが異様に金がかかっている。在宅勤務が多く、ライター仕事もあり、さらに趣味も小説書きな私はずっとずっとデスクまわりで日々を過ごしているわけなので、それを考えるとこれらはすべて必要な投資だったということにしたい。

ここに近々でかいモニターも導入しちゃおうかな~などと考え夢はいくらでも広がっていくが、夢が広がりすぎる前に……千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太氏の4人の座談会を中心に構成されている『ライティングの哲学』を、読んだのであった。

環境を整えると仕事は捗るのか

『ライティングの哲学』は、「書けない」と悩む4人の執筆陣が、どうしたら「書けない病」を克服できるのかと座談会やその手がかりを模索している本である。と書くと、まず驚くのが「このメンツでも『書けない』と悩むのか……!」ということではないだろうか。書き出しが決まらない、何を書いてもダメな気がする、そもそもデスクに向かう気力さえわいてこないと、4人はそれぞれ悩みを語る。

いや、実をいうと、私もブロガー歴10年目なので、知ってはいるのだ。原稿に向かう前に「ちょっとだけ」とインスタと楽天を往復し続けて2時間経ってしまったとか、「ネタ探し」とTwitterを1時間見続けて結局原稿は1文字も書かずに寝落ちしてしまったとか、そんな怠惰な人間は世界で私だけなんじゃないかと凹んでみるものの、蓋を開けてみると案外みんなそんなもんだということを。売れっ子でプロの文筆家でも、書けないし、書く作業に取りかかるまでを億劫に感じるらしいことを。

みんなけっこう苦しみながら机に向かっていて、書く作業が捗る魔法のような方法は、残念ながら存在しないらしい。本書も結局、「書けない病」を克服するというよりは、「書けない病」を抱え続ける=諦めるところが着地点となっている。もちろん使えそうなアプリや方法論などいくつかのTipsは紹介されているが、それらは「書けない病」を克服し根本から打開できるようなものではない。

そう、いくら大きなデスクを買い、立派なワークチェアを揃え、最新のガジェットをそのまわりにはべらせたところで、もしかしたら書く効率が1→2くらいにはなるのかもしれないが、1→10には決してならないのだ。モニターを導入する前に、改めてセルフ釘を刺しておいてよかったなと思う。