独身でいると急に襲ってくる「人生が拡大していかない焦燥感」。でも、なんとか生きていけるものだ

by Marcos Paulo Prado

二次創作の世界にほとんど触れたことがない人(つまり今これを読んでいる人の大半)に、少し考えてみてほしいことがある。この界隈で創作をする人は、いったい何を目指していると思いますか? 本をたくさん頒布して売上をあげること? ゆくゆくはプロの作家になること? はたまた、SNSでフォロワー数を増やすこと? 

答えは、どれも不正解である。売上に関しては、むしろ上げてしまうと著作権の問題に引っかかるのでNGだし、他の2つに関しても、それを目指している人がまったくいないとは言わないけど、本質的な目標ではないことが多い。

では、私を始め二次創作をしているほとんどの人は、いったい何を目指しているのか。正解は、「頭の中にあるイメージをより正確に出力できるようになること」である。

私たちは推しの妄想をしている。しかし、自分の頭の中にいる推しはこんなに素敵なのに、それを絵や文章として出力すると、たいていの場合最初はあまり素敵ではなくて、そのことに幻滅してしまう。

「頭の中にいる推し」のイメージをできるだけそのまま、絵や文章として出力したい。他の人と推しの魅力を共有したい。そのためには様々な方法で、絵や文章の技術を向上させなければならない。多くの同人女はこの果てしない道のりを、頂上目指して走っている。ほとんどのことがすぐにお金儲けやフォロワー数やマウンティングに結びついてしまう現代において、1人で孤独に走るしかないこの慎ましやかな「頂上」がある界隈というのを、私はわりと気に入っているのだ。

意地悪な言葉を吐かせた原因

ところで、最近読んだ本に料理家の寿木けいさんのエッセイ『泣いてちゃごはんに遅れるよ』がある。寿木さん自身が家庭のある女性なので、おそらく私のような独身よりは、夫も子供もいる女性が読んだほうが共感度が高い本だと思う。だけど軽い読み口の中に、たぶん境遇や属性は関係なく、ヒヤヒヤさせられる文章があるエッセイなのだ。

たとえば、出産直後の寿木さんが、出産を経験していない年上の女友達と会ったときのエピソードが書かれている『ただ白いクロスを汚したくないだけ』。友達と話しながらおっぱいが張ってきてしまったことを心の中で気にする寿木さんに向かって、友達はこう言う。

「あなたがオムツや母乳の話だけの女になりさがってなくて、ほんっとにうれしい」(p.115)。

「なりさがる」という言葉に圧倒され、判定される気持ちになってしまったと寿木さんは綴るが、出産経験のない独身の私としては、「私、友達にこういう感じのこと言ってないよな!?」と焦ってしまった。気づかぬところで言っていたら申し訳なく思うが、しかし、出産間もない友達にこういう言葉を投げかけてしまった年上の女性のほうの気持ちも、私はまったくわからないではない。出産という圧倒的な体験を機に寿木さんが変わっていってしまうのではとなんとなく寂しく思う気持ちや嫉妬が、彼女にこのような、ちょっと意地悪な言葉を吐かせたのだろう。