「人それぞれの美しさがある」は本心だけど

個人差はあるだろうけど、おそらく少なくない人にとって、容姿へのコンプレックスは年齢とともに薄まっていくと思う。それはきっと、結婚などをして多くの異性から注目を集める必要がなくなったりだとか、あるいはそもそも容姿が整っていることで解決できる問題がそれほど多くないことに、人生のどこかで気づくからだろう。これは本心だし、私は人目をまったく気にしない図々しい中年になった自分が好きである。

しかし、いまだに『あなたの鼻がもう少し高ければ』に出てくるような港区女子、ギャラ飲み、美容整形みたいなワードに、時折とても惹きつけられてしまうのも事実。自分がその世界に直接的に憧れているというよりは、たぶん、大きくお金が動く場所が持つパワーみたいなものを無視できないのだと思う。YouTuberがドバイで豪遊したりする動画、疲れて何もやる気が起きないときとかに見ちゃうしな。

でも、人生ってわからない。今の私はわりと本心から「人ぞれぞれの美しさがある」と思っているし、ルッキズム的なものにも反対しているけど、あと何周かしたらまた20代の頃のように、容姿へのコンプレックスに囚われる日が来ないとも限らない。あの痛さを「過去のもの」とはせずに、なんとなくでいいから、自分の中にとっておきたいと思う。
短編集『春のこわいもの』、私にとってはそんな、最近見ないことにしていた感情の宝庫であった。

Text/チェコ好き(和田真里奈)