自分の三大性癖を分析すれば、人生が味わい深くなる?代わり映えしない毎日に

by tabitha turner

二次創作の世界に初めて足を踏み入れた人は、この界隈であまりにもカジュアルに「性癖」という言葉が飛び交っていることに、もしかすると驚くかもしれない。しかし当然ながら、皆「私、言葉責めに弱いんです……」などと自分の夜の生活について赤裸々に語っているわけではない。「性癖」でアダルトな連想をしてしまうのは実は誤用で、この言葉の正しい意味は「性格、傾向、癖」などである。つまり、「私、死別カプが性癖なんだよね! 死別大好き!」などとはしゃいでいる私のほうが、本来の意味に近い形で「性癖」という言葉を使用している……のか?

冗談はさておき、短期間に創作をやりまくっていると、自分が好きな物語の「型」=「性癖」が見えてくるのは本当だ。ちなみに私の三大性癖は「①時代や状況の変化によって、登場人物たちを取り巻く環境や価値観が急激に変化する」「②登場人物たちが抗えない運命に翻弄され、本懐を遂げられずに終わる」「③郷愁」であり、①→②→③のストーリーラインをなぞっている物語にはほぼ確実に「堕ちる」。例をあげると、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』やカズオ・イシグロの『日の名残り』、あるいは海外ドラマの『ダウントン・アビー』などがこれに該当するかもしれない。他、「性癖は『①少年性』『②原罪』『③誤算』です」という人がいたり、「性癖は『①羨望』『②呪い』『③運命じゃない人』です」という人がいたり、他人の「(物語における)性癖」を聞くのってめちゃくちゃ面白い。これを読んでいるあなたも、ぜひ自分の三大性癖を考えてみてね。

「人生を変えられたら」と願ってはみるものの

ところで、以前この連載でアリス・マンローの短編集『小説のように』を紹介したが、今回は同じ著者の『イラクサ』について語らせてほしい。マンローは短編小説の女王と呼ばれるだけあって、『イラクサ』もまた、9つの作品からなる短編集だ。

マンローの小説は、おそらく「運命じゃない人」という言葉に何かしら心を揺さぶられる人にとっては、性癖を突いてくるのではないかと思う。たとえば表題作『イラクサ』は、大きな不満はないが人生への充足を感じられなくなっている主人公の中年女性が、友人の家で偶然幼なじみの男性と再会し……というストーリーだ。ここで、この幼なじみと燃え上がるような不倫の恋に堕ち、人生をやり直す――なんて、上手いこと話は進まない。「もう一度燃え上がるような何かに身を投じられたら」「人生を変えられたら」と主人公は仄かに願ってみたりもするが、幼なじみは去り、主人公の人生は変わらない。しかし、その変わらない人生こそ、燃え上がりはしない人生こそ、私たちが味わうべきものじゃないかと『イラクサ』は訴えかけてくる。

他、『ポスト・アンド・ビーム』なども私が好きな小説だ。主人公のローナもやはり、明言はしないが、どこかで「人生を変えられたら」と仄かな期待をしている。結婚していて子供もいるが、この世のどこかに、充足した本当の自分の人生があるのではないかと思っている。やがて、人生を大きく「変えそうな」出来事が訪れるが、ローナの生活は結局変わらない。穏やかに、退屈に、日々は続いていく。マンローはこうして、愚かな期待と変わらない人生を、意地悪なくらい鮮やかに書いてしまうのだ。