ハタチの頃、男友達にYouTubeの撮影で半ば強引に連れて行かれた銀座の美容外科。初めての整形は二重の埋没と鼻のヒアルロン酸、糸リフトの3点だった。強い緊張感と恐怖心に加えて、沸き出ていたのは高揚感。このときは整形を一大イベントだと思っていたし、これが最初で最後だと本気で思っていたのだが、4年後には月に一度は必ずクリニックに通う一流のモンスターへと成長を遂げていた。瞼裏の局所麻酔で自らの拳を爪の跡が食い込むほど強く握りしめ、静かに涙を流すことで痛みを訴えかけていた少女。あの子が今では「いっっっったああああ!マジで痛い!」と医師に大声で吐露している。もちろん、整形依存の登竜門である”ヒアルロン酸の入れすぎ”も経験済みだ。
この4年間の顔面課金総額は肌治療などのメンテナンス代も含めて、おそらく3桁折り返しほどになる。顔のパーツで手付かずの土地はついに耳と頬骨だけになった。自分自身でも完成形をイメージできていない中で繰り返している美容整形。サグラダ・ファミリアの建築もこんな感じなのだろうか。
芸術への冒涜はさておき、さすがにもう顔の改良工事にはある程度の達成感を感じている。いや、正しくはこれ以上の美容整形での伸び代には限界を感じているのかもしれない。誰しもが整形をすれば、美人になれるというわけではないのだ。その結果、最近では身体の脂肪吸引や皮膚治療、女性器形成に興味が湧いている。いずれにせよ、他力本願、ドクター様様というわけだ。
今回は六本木のクリニックへ
そんな怠け者はさっそく、六本木にあるヴェアリークリニックという婦人科系の悩みに強い美容外科へ行ってきた。クリニックに入って早々、清潔感に溢れた華美な内装を見て、「これは儲かっているな」と確信した。本当にどうでもいい話だが、もしも「床を舌で雑巾掛けしろ!」と言われても、そんなに嫌じゃないと思えるほどにはピカピカだった。
カウンセリング室へ入ると、イケメンでクッソスタイルの良い院長、つまりは私が苦手なタイプのドクターが佇んでいた。なぜイケメンなドクターが苦手なのかというと、私が元クソブスだからである。イケメンで美的センスまで優れている男にカウンセリング室という蛍光灯がバンバン焚かれた部屋で顔をまじまじと見られるだなんて、全力の劣等感である。ドクターということはもちろん高学歴であり、ましてやこいつはスタイルまでいいので、”人間皆平等”だなんてやはり大嘘ではないかと暴れ出したくなってしまった。
そんな心に秘めた醜い僻みはドクターへ伝わることはなく、カウンセリングが始まった。先ほどから顔の話ばかりしてきたが、そもそも今日このクリニックへは背中とお尻のダーマペンを受けにきただけである。つまりこれまでの話は9割強余談である。
カウンセリングはとても丁寧に行われ、イケメン院長は性格までいい奴であることが発覚した。知れば知るほど鼻につく奴ではあったのだが、劣等感を通り越して来世はこうなれるようにと祈ってしまった。きっとこいつは前世で相当な徳を積んだのだろう。きっと私は前世で町中に火でもつけた挙句、人のせいにでもしたのだろう。
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