善悪を語らない、静かな肯定
ただ注目しておきたいのは、近所にバレるくらい夫に捨てられたことを泣いていた惨めな中年の女を、主人公が「色気がある」と捉えていたことだ。「ひとり暮らしが上手い/下手」は確かにあるが、上手いから偉いわけでも、下手だからダメなわけでもない。
二次創作にももちろん「絵や文章が上手い/下手」はある。ただ、下手だと同人活動は楽しめないのかというと、そうでもない。スタートが「こんなことを考えついてしまって大変申し訳ありません」なのは神絵師だろうがなんだろうが皆同じだし、行き詰まった神絵師がほとんどROM専の誰かのマシュマロによって救われることもある。人間は、誰しもがしょーもない。経営者だろうと専業主婦だろうと、ひとり暮らしが上手かろうと下手だろうと、皆同じ穴の狢だ。
そういうわけで、同人活動ついでに『台所のおと』を読むと、ありのままの自分を全肯定しすぎてしまって「じゃあもう一日中寝ててもよくね?」となりやる気が消失するのでそれはそれで考えものなのだが、もし今ちょっと辛い時期にいる人がいるなら、静かな肯定が優しい『台所のおと』、読んでみてほしい。
いきなり小説をpixivにアップするよりは、幸田文を手に取るほうが、まだハードルは低いはず。
Text/チェコ好き(和田真里奈)
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