インターフォンに出ない隣人…恋人と同棲を始めてすぐ起きた事件

かつて恋人と同棲を始めようとしたときのことです。当時住んでいた互いの部屋は、ともにワンルーム。さすがに手狭ということで、ふたりで新しい物件を借りることになりました。

同棲の新居選びは、カップルにとって楽しいイベントです。しかし、当時の恋人は仕事が多忙で休みが取れず、わたしがひとりで内見して回ることになりました。不動産屋の営業に連れられて数軒見てまわったものの、どこもイマイチ。「この予算じゃ、希望通りの物件は無理かな……」と、諦めていたところ、最後に案内された物件に一目ぼれしたのです。

その物件は、一つの棟に二階建てが三軒繋がった、俗にテラスハウスと呼ばれる物件でした。目の前に川が流れているのは少し気になりましたが、堤防は整備されているから氾濫はなさそうだし、日当たりもよく家賃も予算内で、間取りも文句なし。これまで見た物件が不発だった分、「絶対にここに住みたい!」とテンションがブチあがったわたしが、恋人を押し切る形で、そのテラスハウスの一番手前の部屋に引っ越すことになったのです。

テラスハウスに引っ越した後は

一人暮らし用の物件ならばともかく、家族で住むような間取りだったし、飼い犬の鳴き声で迷惑をかけることもあるかと思い、引っ越し当日は、小さな入浴剤のセットを用意して近所を挨拶回りすることにしました。大規模な集合住宅であれば、両隣と階下の部屋に挨拶に行くことが多いと思うのですが、テラスハウスということで同じ棟の二軒のインターフォンを押したものの、まったく反応なし。

夜まで待ってもう一度、尋ねてみたところ、一番奥の家は家の中が真っ暗だったので、留守だろうと判断。一方で手前の隣家は、うっすら電気がついている。でも、再度インターフォンを鳴らしても応答ありません。居留守……? しかし、インターフォンに出ないタイプの家主だというのならば仕方がない。両軒ともに、引っ越してきた旨の手紙と粗品を入れた紙袋をドアノブに掛けて、挨拶に代えることにしたのでした。

翌朝、一番奥の家に住んでいるという女性がうちに訪ねてきて、ようやく顔を合わせることができました。「うちは共働きで、夫婦ともに帰りが遅くて……」とのこと。実家を出て以来、四回目の引っ越しであるにも関わらず、近所に挨拶回りをしたのは、実はそのときが初めてでしたが、“近所に住んでいる人の顔”を知ると安心するし、何よりもその“ちゃんとしてる感”が、恋人との新生活の幸先を良くする気がして、なんとなく誇らしい気持ちになったのでした。