夢を持ち続けること、何かを待つこと、期待すること

もう一つ、『待っていたのは』の中で私が気に入っている作品は『アナゴールの城壁』。主人公はガイドに案内され、アナゴールという町の城壁までやってくる。町の住人になれば、幸せに暮らせるらしい。ただしアナゴールは門が固く閉ざされていて、その中に入れることは滅多にない。だから城壁のまわりでは、門がいつか開くことを夢見て野営している人がたくさんいる。主人公もそんな人々に混ざって、何と24年間も城壁の外で野営を続けるが、結局門は開かなくて諦める。『夕闇の迫るころ』と同じく、こちらもあまり読後感の良くない小説だ。ただ、夢を持ち続けること、何かを待つこと、期待すること、それってどういうことなのかを甘くない言葉でじわじわと考えさせてくれる短編なので、私は定期的に読み返しては腹ワタをえぐられている。

ブッツァーティの小説を読んでいると、人生の良し悪しって、年収とか既婚未婚とか子供がいるいないとか、そういう表面的なものよりも、もっと深いところにあるんだとわかる。そしてその深いところにあるものは、自分で掘って探さないと見つからない。『待っていたのは』は、人生が上手く行っていると思えている人を突き落とし、人生があまり思うように行っていないと感じている人を少しだけ癒してくれる、そんな不思議な短編集だと私は思う。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはずです。