カウンターの会話が聞こえてきて…

続いて登場したとんこつは、トロトロに柔らかく煮込まれたものを軽く炙ったもので、表面はパリパリ。しっかりした塩味が利いていて酒のアテにぴったりです。東京ではなかなか食べることが出来ない、焼きとんこつが食べられるなんて。勇気を出して入ってよかった……と頬張っていると、カウンターのほうから、「短いスカートとか、履くこともあるの?」という声が聞こえてきました。出た~! 酒場のセクハラ!!!

とはいっても、それを尋ねられているのは、わたしではなく、カウンターにいる女性です。尋ねているのは、一番奥の席の男性。いったいなんて答えるのか……と耳を澄ませていたところ、意外なことにも「そういうこと、聞いちゃダメだよ!」、その発言に最初に反応したのは、右手側の男性でした。それに続いて女性からは、「履くけど、別に誰に見せたいってわけでもなく、自分のためにね!」と模範的な解答が。さて、それに対して質問の主は「自分のためって、どういうこと?」とさらに突っ込む。「それは開放的な気分になりたいときとか」と答える女性に「なるほど、リゾートとかでは短いズボンを履きたいもんなぁ。ところで(こちらのテーブルをちらりと見ながら)、子どもとかって欲しいとか思ったりする?」「だからそういうことは、聞いちゃダメだって」と、再び諫めるもうひとりの壮年男性。

無神経オジ×無頓着女性×ポリコレ派オジの、噛み合っているのかいないのか、コントのようでもあるけれど、いまいち笑いどころのない会話を聞きながら、もう一杯おかわりしようか迷っていると、入ったときから居心地悪そうにしている夫が、そろそろ出たいという合図を送っていました。仕方なくお会計をお願いして席を立とうとしたところで、今度は女性客が「ところで、この間の変態クラブだけど……などと物騒な話を始めたではないですか。なに変態クラブって! わざとゆっくりと財布を取したりしつつ、耳を澄ませていたのだけれど、話題は変態クラブそのものではなく、そこの会員らしき男性の噂話へと飛んでしまい、これ以上聞いても謎は解けそうもないので、その店を仕方なく後にすることとなりました。

そうして店の外に出て、声が聞こえない距離に辿り着くや否や、夫はずっと言いたくて言いたくて仕方がなかったことを、ようやく口にできるとばかりに「君の! 飲んだ酒に入ってたあの黒いヤツ! 小さいゴキブリなのに、なんで普通に避けて飲むの!?」と堰を切ったように訴えてきたのだけど、わたしもまた無頓着女性であって、“そういう店”をそこまで居心地悪いと思わないといいますか。

Text/大泉りか