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  • 2016.11.17

人間はみんな、支配されたがっている!/脳研究者・池谷裕二さんに聞く「支配されたい」の正体(前編)

特集『「支配されたい」の正体』にあわせ、脳研究者として多数の著書を出版した東大教授・池谷裕二先生にお話を伺いました。女性のほうが強いと思われがちな被支配欲求は、実は男女が平等に持ち合わせているものだった!など、恋愛のメカニズムにかかわる根幹的な問題まで盛りだくさんでお届けいたします。

AM 特集 支配されたい 脳研究 池谷裕二脳研究者・池谷裕二さん

 『男の人に支配されたい?』と問うと、おそらく女性の半分くらいは「はい」と答えるのではないかと思う。「いいえ」と答えた人の中にも、「自分が認めた人ならば、支配されるのもやぶさかではない」と考えている人は少なからずいるはずだ。私は後者に当てはまる。そして、支配されたい人は、支配されることに快感を覚えているはずである。古くから女性向けの漫画やゲームにも、“男性が女性をリード(支配)する”というものが多い。なぜ、支配されることは心地いいのだろうか。“支配”は“束縛”や“不自由さ”とも言い換えられる。決して印象の良い言葉ではない。支配されたい気持ちの正体について、脳研究者の池谷裕二先生(以下、池谷)に聞いてみた。

女性だけでなく、男性も支配されたい

池谷:そもそも、男性よりも女性のほうが被支配欲求は強いって、本当にそうでしょうか?

――うーん、そういうイメージはありますけれども……。漫画やゲームでも女性向けのものはそういうのが多いですし。

池谷:そう、おっしゃる通り、女性のほうが支配されたい欲求が強そうなイメージはあるんですよ。でも、男も似たような願望を持っていることは珍しくないと思います。
ただ、支配する欲求は、男性のほうが強いことは間違いないようです。実際、社長になりたいと思っている人や、あるいは実際に社長になるような人は男性のほうが多いですよね。

――ああ、じゃあ、男性は支配する欲求も、支配される欲求も、両方強いってことですか?

池谷:そうそう。女性は支配欲求が強い人は比較的少ない。女性社会では人間関係を大切にする傾向があります。ですから、強い支配欲求は集団生活を送る上であまり有利に働かないものです。つまり女性は、支配欲求が弱く、結果として相対的に被支配欲求が強くなるのではないかと思います。

――単に男性が支配、女性が被支配、と分担されているのではなく、男性は支配したいし、支配もされたい。女性は支配したくないけど、支配はされたい。ということだったんですね。

人間は「自由」が苦手

池谷:僕ら人間は、大海原にぽんと放り出されると急に不安になるものなんです。どこに行ってもなにをしてもいいよと言われると、自由なので一見嬉しいことに思えますが、実はダメ。小学生の頃、夏休みの宿題に自由研究がありましたが、意外と困りませんでした?

――困りました。何をすればいいか全然わからなかったです。

池谷:それと同じで、人間は「何をしても自由だよ」と言われるのが苦手なのです。小学生どころか、うちの研究室の学生ですら、自由に研究をしていいよ、と言われると研究に手がつきません。だから、最近はこんなテーマが流行っているよ、などと選択肢を与えるか、それでも選べない人には、テーマをこちらから指定します。そのほうが学生も飛びつくし、上達していくんですよ。

――そうなんですね。

池谷:スポーツも同じで、サッカーって、よく考えたら変じゃないですか?

――変?

池谷:だって、ボールなんて、そもそも自由に手で扱えばいいはずです。それなのに、手を使ってはいけないというルールが作られて、その制限の中でスポーツをしている。これも支配欲求の表れです。外部の者にルールを作ってもらって、その不自由さを楽しむ。これがスポーツなんですよ。つまり、基本的に僕ら人間は、不自由が楽しいんです。ルールに従うほうが好きということなんです。

子育て中の脳の動きは、恋愛しているときと同じ

AM 特集 支配されたい 脳研究 池谷裕二脳研究者・池谷裕二さん

――恋愛における「リードされたい」というのも、“不自由さを好む”ところからきているのでしょうか?

池谷:これについてはもうひとつあって、恋愛は“子育てのバグ”だと言われています。

――えっ、バグなんですか?

池谷:“恋愛”は太古の昔、たとえば人がまだサルだった頃は存在していませんでした。じゃあ、どこかのタイミングで恋愛という脳内現象が突然生まれたのか、というとそういうわけではありません。動物の進化には必ずその前駆型があって、それを発達させて進化が遂げられるものです。恋愛も同じことで、その昔には恋愛の原型となるものが脳にあって、それが進化して、恋愛となった。その恋愛の原型とは、“子どもに対する親の愛情”なのです。

――そうなんですね! だから“子育てのバグ”なんですね。

池谷:実は恋愛してるときの脳の状態を調べると、子育て中の脳の状態とほぼ一緒なんですよ。

――恋愛中と子育て中に活動する脳の部位が同じってことですか?

池谷:そうです。腹側被蓋野とか、側坐核とかが活動しています。逆に、そこの活動を調べれば、「愛してるよ」と言ってる人が本心から言っているかどうかもわかってしまいます。

――本心では愛してなかった場合は、脳の恋愛&子育ての部分が活動しないんですね……。

池谷:そう。脳が動いてないから、口先だけだね、とバレてしまうわけです。

恋愛感情の登場が人類にもたらしたもの

池谷:夫側の愚痴で、「子どもが産まれた途端、妻からないがしろにされるようになった」というのがありますよね。これも子育てと恋愛の脳の活動が似ていることが関係しています。母親は子どもがかわいくてしょうがなくなると、それ以外の対象が目に入らなくなってしまうのです。

――そういうの、よく聞きますね。

池谷:つまり、子育て中は、特定の人に向く愛情が発生しているわけです。本来、子育て中だけ発生するはずだった愛情が、バグで他人に向いてしまった。それが恋愛の実体なのです。

――恋愛という感情の登場は、人類にとっては良かったのでしょうか? 悪かったのでしょうか?

池谷:恋愛も子育て同様、子孫繫栄に直結しているので、決して悪い話ではないと思います。それに、恋愛感情があると1人の相手に陶酔できるので、世界中の人を吟味しなくてもいいシステムになっているんですよ。ベストの人を探そうと、すべての異性を吟味していたら、生殖期間内に結婚できずに終わってしまいます。

――言い方は悪いですが、恋愛感情にごまかされるおかげで、妥協できるということでしょうか?

池谷:まさにそうです。恋愛していると「もうこの人しかいない!」という感情になりますよね。もちろん実際は、そんなはずないんです。でも、盲目的になれるおかげで、余計な可能性を考えず、結婚にまで至ることができます。この人のためだったら労を厭わない、という状態になるのが恋愛感情です。

子育てと恋愛に共通する“不自由さ”

池谷:恋愛では「この人のためなら何でもする!」とぞっこんになります。これと同じように、子育ても、親は子どものためだったら何でもできます。子育てはめちゃくちゃ不自由なことですよね。中には、育児うつになったり、子どもを虐待してしまう例外もありますが、世の中のほとんどの人は、子どもに振り回される不自由さを楽しんでいるわけです。

――そうですね。子育てはお金も時間も体力も使うし、不自由ですよね。

池谷:そうです。ちなみに、実は男性の子どもへの愛情は、最初はお母さんの愛情ほど強くはないんですが、子育てに参加することで、オキシトシンなどの愛情ホルモンの量がお母さんの脳と同じレベルにまで増加することがわかっています。子育てに参加すればするほど、人の目を気にせず、ブログやSNSに写真を投稿しまくるバカパパになります(笑)

――このとき、脳は恋愛しているのとほぼ同じ状態になっているってことですよね。

池谷:親バカだと外から醒めた目で見られていても、本人はまったく気づきません。まさに、恋愛と同じ構造ですね。

――振り回されればされるほどハマるというのは恋愛でよくありますよね。

池谷:そう。だめんずに惹かれてしまうのも不自由が楽しいから。「彼は私がいなきゃダメなんだから」とか「この女、俺がいないとダメなんだよ」とかは、手間がかかるからこそ熱中するという心理構造です。人は基本的に他者に束縛されたい生物なのです。

――支配や束縛をされるのは対等な恋愛じゃない、とよく言われるので、ダメなことだと思っていました。

池谷:とかいいながらも、いざ「君の自由に好きにしていいよ」と言われたら、愛されてる感じがしないですよね。それよりは、「来週の日曜日、空けておいてね」と予定を拘束されたほうが、私と一緒にいたいんだなと愛情を確認できる。束縛されて不自由になりたいというのは、人間の自然な感情だと思いますよ。

後編:コーヒーと拘束プレイは似ている!?全人類は苦痛のトリコへ続く)

(文/朝井麻由美)

池谷裕二
薬学博士で東京大学薬学部教授。脳研究者。
主な著書に『進化しすぎた脳』『海馬』(糸井重里氏との共著)、
『脳はこんなに悩ましい』(中村うさぎ氏との共著)などがある。
ツイッター:@yuji_ikegaya

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