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  • 2014.01.24

2013年の“女子”と本!私たちが困惑する“女子”という言葉の正体

 ライター・書評家の倉本さおりさんによる、女子と本に関する連載がスタートします! 新書、小説、エッセイからマンガまで、さまざまなテキストから浮かび上がってくる“女子”の因子をいっしょに解析しませんか? 今回はプレ回として、2013年の「女子と本」をお送りします。

【女子÷テキスト】 第0回「2013年の“女子”と本」

倉本さおり 女子 テキスト 本 書評 恋愛 AM
©by PhotoCo.

「こじらせ女子」がノミネートされた2013年の流行語大賞。
とっくに日常に馴染んでしまっている表現かもしれませんが、世代や性別が違えばまた新鮮に映るということを物語るニュースでもありました。

 一方、“女子”ということばへの嫌悪感の一端が露わになったケースとして、『anan』の「もう“女子”は卒業です!」宣言もすくなからず話題にのぼりました(※http://www.j-cast.com/2013/09/08183151.html?p=all)。

 むしろこの一件で興味深かったのは、“女子”のニュアンスが発信者と受け手の間だけでなく、受け手の中でもずいぶんばらつきがあるということ。
つまり、いまだ整理されていない“女子”の位相――そんなアンタッチャブルなテーマにさまざまなテキストの力を借りつつおそるおそる挑んでいこうというのがこの連載の無謀な趣旨であります。

 プレ回の今日は、2013年に出版された“女子”をタイトルに冠する書籍の中でも、ちょっと変わった角度から私たちのことばを照らしてくれるタイプの本を選んでみました。
情報誌やファッション誌から発信される「女子」や「女子力」とはなんとなーくウマが合わない、という方にもおすすめしたいテキストです。

進化した女子会は“女子力”を謳わない 『女子会2.0』 ジレンマ+編集部 NHK出版

女子会 ジレンマ+編集部 NHK出版
『女子会2.0』
ジレンマ+編集部
NHK出版

 もしも“女子会”のメンバーが全員、気鋭の女性論客だったら――?
そんな若干おそろしげな想像を実現させてしまったのがこの『女子会2.0』
ふわふわのパンケーキをいろんな角度から撮影して愛でる代わりに、今の20~30代女子を柔らかく覆う不安の正体について、具体的かつ多角的に語り倒しています。

 雇用の現実や社会背景、女性誌の掲げるキャッチコピーの変遷――彼女たちの舌鋒によって明らかにされるのは結婚市場の実態、そして「専業主婦」という甘やかなゴールの崩落です。
とりわけ「本当に女子力が高い人は、自分も騙していますからね」のひと言は破壊力抜群。
「女子力アップ」をいたずらに謳う前に、「女子力アップ」で本当に得られる対価を考えてみる――こうした合理的な思考の力で会話が小気味よくころがっていく快感は、まさしく進化した女子会のなせるわざ。

 とはいえ“女子会”を名乗るからには、四角四面のエビデンスで固めていくテキストとはひと味違う。
時には「長年週刊誌を読んできた下世話なデータ」を持ちだしたり、「『ときメモGirl’sSide』(※女性向け恋愛シュミレーションゲーム)ですらもうまくできない」といった個人的なトホホ体験を引っぱりだしたり。
トークが柔軟に伸び縮みする面白さも特色のひとつです。

 加えてポイントとなるのが85年生まれの古市憲寿さんの存在。
ここで扱われる“女子”と対になるような“男子”がちゃっかり混じっている点でしょう。
結婚によって自分の生活レベルを下げたくない。
むしろ「階層上昇を図りたい」なんてさらっと言っちゃう、ある種の典型的現代男子。
あくまでオブザーバーとしての参加のため、とりたてて何をするわけでもないのですが(ごめんなさい)、そういう生身の“男子”が場に存在することによって、ともすれば“女子である”という共感だけでぱんぱんに膨れがちな空気が定期的にすうっと落ち着く。
話題はシビアでも、息苦しさとは無縁の“開かれた女子会”がここにあります。

“女子”の処方箋はディティールにあり 『ダメをみがく ―“女子”の呪いを解く方法』 津村記久子 深澤真紀 紀伊國屋書店

ダメをみがく 津村記久子 深澤真紀
『ダメをみがく ―“女子”の呪いを解く方法』
津村記久子 深澤真紀
紀伊國屋書店

「共感」の力。

 男性にとってのロジックと対比的に使われるキーワードであり、そのまま女性の長所を表すことばでもありますよね。
でも哀しいかな、その力があまりに行き過ぎると、とたんに「相互監視」「同調圧力」という名の呪いに化けてしまうことがある――。
本書はそうした呪いをできるだけ省エネでやりすごし、健全に生き延びるための工夫をユーモアたっぷりに説いた対談集です。

 同性によるパワハラで会社を辞めた経歴を持つ芥川賞作家の津村記久子さんと、150社以上もの就職&転職活動を経験した編集者・コラムニストの深澤真紀さん。
彼女たちが家族や同僚、友人関係の中にある相互監視や同調圧力の苦しみをくぐり抜けて得た処方箋は、「共感を求めない」こと。
楽しい時間を共有するのはおおいに結構だけれど、感想や価値観、ましてや生き方まで共有する必要なんかまったくない――男文化だけでなく「女子力」の中にも別種のマチズモが存在することを冷静に見抜き、適度に切り分けて考えることの大切さをわかりやすい喩えで教えてくれます。

 たとえば、「(あなたは)子どもがいないからわからない」という、これまたよくある呪いにはどう切り返すか?――津村さんの答えは「マザーテレサとか子供おらんかったで」!(笑)。
強権的なスローガンなどではなく、ささやかなディティールによってこそ救われる部分が確かにあるということ。
これもまた“女子語り”の効能の特徴でしょう。

“女子”のルーツをたどることば 『女子と作文』 近代ナリコ 本の雑誌社

女子と作文
『女子と作文』
近代ナリコ
本の雑誌社

「作文」というとなんだか堅苦しい印象を持ってしまうかもしれませんが、本来の意味は「書きもの」全般のこと。
たとえば、一世を風靡したイラストレーターのエッセイ、詩人や歌人の随筆はもちろん、戦前に書き送られた留学生の手紙もあるし、さらには大正時代のラブレター、「かわいい」でひしめく雑誌『オリーブ』の読者投稿欄なんかも登場する。
戦前から現代まで、生まれた時代も境遇もばらばらの女性たちが綴ったことばを丁寧に丁寧にすくいあげ、新しい光をあてた珠玉のアンソロジーです。

 家庭がありながら第一線で働くことのジレンマ。この先で待ち受ける「女性の生き方」への不安。当時はまだ名前が与えられてなかった“文化系女子”の混乱と興奮。
彼女たちのことばに共通しているのは、「書く」という行為を通じて、自分が置かれた世界と懸命に折り合いをつけようとしている点です。
それは同時に、自分自身が「女である」という事実と折り合いをつけることをも意味しています。

「女○○」「妻」「母」「主婦」――女性が社会で生きていくうえで否応なく遭遇するさまざまなカテゴライズ。
そこからどうあってもはみ出してしまう、未分化なことばの集合が、いま私たちが直面している“女子”の正体なのかもしれません。


Text/倉本さおり

次回の記念すべき第一回は、「女子÷野心」です! お楽しみに。

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ライタープロフィール

倉本さおり
ライター。書評、インタビューなど。『本の雑誌』連載中。

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