娘が「夜の世界にいきたい」と言ったら
――最後に。鈴木さんは夜の世界に飛び込むことで、色々な体験ができたとお話していましたが、もし娘さんが「夜の世界にいきたい」と言ったらどうしますか?
私がおぼろげにわかった夜の世界の不健全さや、心が疲れる仕組みは話すと思います。でも、そんな話が夜の世界が見せている魅力に勝てるとは思えない。私は物書きでもあり、元夜の嬢でもあるから、語る言葉は正直たくさんもっているけど、夜の世界を諦めるよう彼女を説得できるかは自信はないですね。
――意外でした。
もちろん、説得できる言葉を獲得したいと思って、日々考えてはいます。でも、当時自分がキャバクラにいて楽しいときに、この言葉に出会っていたらそこから離れてたかもしれないっていうほど強い言葉は私もまだ持ってないから。結局は母と同じように、日々娘の身に起こる色々なこととその都度向き合い葛藤していくしかないんだろうなっていう、漠然とした諦めもありますね。
――諦めというとどんなことでしょう?
現実を凌駕するような言葉を生み出したいけど、目の前にあるものすごい現実を超える言葉ってないような気がするんです。
新聞記者だった頃に、小泉純一郎さんが靖国参拝をしたんです。威風堂々と靖国に降り立った姿をテレビ中継で見た国民の多くが、支持派に意見を変えました。あの出来事を報道したのが新聞だけだったら、そのまま不支持派の方が多かったと思う。
靖国参拝とか、震災とか、現実の前に言葉の無力さを感じることはあります。でも、その無力感と戦っていきたいというか、言葉は尽くしたいと思う。それは私の書く原動力でもあるし。果たして、それが可能なのかはわからないけれど、彼女が見ている現実を超えて、彼女につき刺さるような言葉を得たいですね。