エッセイストの中村うさぎさんへのインタビュー後編です。
前回に続いて後編では、価値観がグラつきまくりだったという20代の頃のうさぎさんのお話や、周囲の人からの横槍に負けずに生きるコツを伺いました。
人の意見に合わせて生きていると自己肯定できなくなる
──うさぎさんが考える「自分を大切にしていない状態」ってどういう状態ですか?
中村うさぎさん(以下敬称略):前回も言ったけれど、自分の幸福とは何かを考えずに、周囲の幸福の基準にあわせて自分の欲望を抑えて、自分がしたいことまで否定してしまうこと。それって自己否定なんですよね。
私は自己否定が一番自分を大切にしていない状態だと思ってる。だって、いろいろ自分に欠点もあるし理想にはほど遠いから、自己肯定感なんてなかなかみんな持てないものなんだけどさ、それでも自分の感じることとか、これは違うんじゃないかなっていう思いを抑えちゃうのって、すごく自分を否定していることだよね。
失敗してもいいから自分の考えていることをやってみて、そこでだんだん自信をつけていかないと、自己肯定感なんか持てないと思うんですよ。
──周りの意見に従っていい子でいても、自己肯定感は育たないと……。
中村:人から「こういうもんだから、こうしなさい」って言われたこと、それがそっくり自分の欲望ならいいんだけどさ、本当は違うんじゃないかと思いつつ従ったり、人の意見に合わせて、自分の価値観や生き方を決定していると、いつまでたっても本来の自分を肯定できないよね。
せっかくみんな、生まれてきてるんだから、他人のために生きるのは馬鹿馬鹿しいので、自分のために生きてほしいなと、女の人に対してはとくに思いますね、人生の選択肢が多くなっただけにね。
──特に若い女性だと、自分がやりたいことや欲しいものが何なのかまだ定かではない女性もいると思うんです。奔放な生き方をしつつあっても、「本当にこれでいいのかな」と心のどこかで迷いがある。そんなときに、「自分のこと大切にしなよ」と他人から言われると、「え? やっぱりそうなのかな?」って揺らいでしまうこともありますよね。
中村:でもさ結局、自分でさえ自分のやりたいことがわからないのに、他人なんかに余計わかるはずないんですよね。
──言われてみれば!
中村:勝手に「中村はこういう人間だろう」と、イメージを押しつけてくる人だっていますからね。
他人が言う「あなたはこうでしょ、こう生きるべきだ」みたいなことを参考にはしても、それを真に受ける必要はないんじゃないかな。他人はたいてい誤解していると思って間違いないので。
他人に何か言われてグラついてもそれはそれでいい
──うさぎさん自身は、他人から何か言われて自分の考えが揺らいだことありますか?
中村:それはありますよ。だいたい20代なんかグラつきまくりだったし。
女性から言われること、男性から言われること、目上の人から言われること、同年代から言われることが全部違ったりすると、誰の言っていることを参考にすればいいのかわからない! みたいな。
まぁ最初から自我が確立している人なんていないし、20代はずっと迷い続けることに意味があると思うし。だから「自分のこと大切にしなよ」って言われて、グラついてもそれはそれでいいんだと思うんですよ。
試しに、みんなの言うように「自分を大切に」してみて、居心地がいいかどうかですよね。「なんかこれ私じゃない」と思えばやめればいいし、逆に「なるほど、このほうがなんか安定して生きられるかも」って思うかもしれないし。だからちょっとやってみて、自分に聞いてみる。それがいいんじゃないかな。
──悩んだら、とりあえずいろいろ試してみたらいいんですね。
中村:そうですね、人生に失敗なんか付きものだから。失敗することでわかることってあるじゃないですか。だから失敗してもいいからいろいろやってみるのが20代とか30代前半くらいかなって思いますね。
後悔するようなことをしちゃっても、人殺しとか犯罪でもないかぎり、取り返しのつかない失敗なんてほぼないってこの歳になってくるとよくわかるんですよ。
私は30代半ば以降が、買い物依存症まっさかりの大失敗期だったんですけど、それは「自分がどうしたいか」がわかってなくて、ああなっちゃってた。
そういう失敗を通して、私は自分が思っているほど冷静な人間じゃないってことがわかったんですよ。それまではしっかり者のつもりだったんで(笑)。自分がしっかり者じゃないことがよくわかっただけでもよかったです。