あなたの価値観は、必ず誰かからの借り物

鳥飼茜 30代からの恋愛 鳥飼茜さん

――恋愛の楽しみ方もそうですが、どうしても年を重ねると周囲の声や社会の規範を重視してしまうことが増えそうですね。

小学館『This!』担当編集S(以下、S) 鳥飼さんの作品を読むと、私は「社会の規範よりも“個”を大事にしろ」と言われている気がして、気持ちがラクになるんですよ。

鳥飼 私は、よく女性どうしの分断や抑圧について聞かれるけど、気にしなければいいだけの話だと思ってしまうところがあります。ただ、社会の規範を大事だと思ってる人からすると、そこから逃れるのは大変なことになりますよね。

たとえば、「結婚したら専業主婦になりたい」という願望がなかなか叶わずにいて苦しいなら、それがいつどこで芽生えた価値観なのか、さかのぼってみたらいいんじゃないかと思います。

人が生まれつき持ってる考えなんてひとつもないはずで、世間で羨ましいと思われてることにのっかっているだけだったり、どこかで誰かにそう思わされてきたことを自分の考えにしているだけだと思うから。ぜんぶ借り物なんだから、入れ替え可能なはずなんです。案外、自分には必要ない価値観かもなって思ったら変えればいい。

――確かに、価値観って自分の知らない間にどんどん狭められていっている気がします。

鳥飼 もちろん、「お金持ちと結婚する」ことが自分の幸せだと思えば邁進すればいい。逆に、自分は結婚後も働きたいのに「奥さんも働かなきゃいけないなんてかわいそうだね」みたいなことを言ってくる人がいるかもしれない。

でも、それはその人の生き方であって、他人の生き方を恥だと思わせるようなことは言ってはいけないし、お互いに自分の問題と他人の問題を一緒にしなければいいだけの話なんです。

――なるほど、その通りですね。

鳥飼 みんなそういうことに意外と無意識ですね。私自身は逆にすごく執着しているんですよ。自由っぽく振る舞っているように見えるけど、自由でい続けることにすごく執着していて。

自分がありたい姿でいるのって、がんばり続けなきゃいけないので大変です。多勢が「こうあるべき」と生きている中で、「私はそうじゃない」と言い続けなきゃいけないし。周りに流されていたほうがラクだし。

でも、違う生き方の女どうし尊重しながら共闘して、女性の生き方をもっと解放させるには、しんどいけど考えることをやめちゃいけないんですよね。

第2回「他人の価値観にゆだねず、自分の心地よさを守ろう」に続く

鳥飼茜
1981年、大阪府生まれ。2004年『別冊少女フレンドDXジュリエット』でデビュー。少女漫画誌を経て、現在は『BE・LOVE』(講談社)に『おんなのいえ』、『月刊モーニング・ツー』(講談社)に『先生の白い嘘』、『FEEL YOUNG』(祥伝社)に『地獄のガールフレンド』と、3誌に連載を抱えている。『おんなのいえ』は2014年に『このマンガがすごい オンナ編』で9位にランクインして注目を集めた。