男女のジェンダー差がはらむ支配と暴力をショッキングに告発する『先生の白い嘘』をはじめ、『おんなのいえ』『地獄のガールフレンド』など女性の生き方を鋭く見つめた作風で話題の漫画家・鳥飼茜さん。今、最注目の彼女に、規範にとらわれない「30代からの恋愛」のあり方を全4回で伺いました。
第1回は、「年齢の壁」って本当にあるの? というお話です。
「30代になったら需要がない」は思い込み?
――今日は、鳥飼さんに「30代からの恋愛」についてお伺いしたいのですが……。
鳥飼茜さん(以下、鳥飼) 私はいま34歳なんですけど、自分ではまだ32歳くらいの気持ちでいて。30代の先輩からは「32歳までは“30代の1年生”だから、逆に若いよ」と言われていたので、まさにそんな感じの気分なんです。でも、今年もう35歳になるという事実に少し焦るというか、時間の経つ早さに驚きますね。
『AM』編集M(以下、編集M) 私は今30代に入ったところなんですが、「30代になる焦り」って28歳くらいの頃が一番やばかったです。29歳の時点では、30歳になる心の準備を完全に整えておかないとまずいんじゃないかとバタバタしていました。
鳥飼 実年齢に感覚が追いつかないですよね。28歳くらいから、年を取るのが倍々で早くなっていきませんか? 気が付けば36、38、40となっていって、その頃ぐらいならやっと「30代の恋愛とは」というのが語れる気がする。だから今日は、みんなで座談会みたいにやれたら嬉しいです。
――実際のところ、30代になって自分の意識や、周りの扱いが変わったと実感することはありましたか?
鳥飼 ちょっと薄暗い飲み屋とかで会った20歳くらいの男の子と、それまで仲良く話していたのに、年齢を言った途端スッと引かれる感覚を味わったこともなくはないですね。ただそれは、「女としてナシ」というほどの意味ではなくて、単に年功序列による遠慮だった、ということはあるかもしれません。(編集部の男性カメラマンに)この中では一番若そうですよね。
カメラマン氏 22歳です。
鳥飼 えー、若い! どうですか? そういうとき、ちょっとギョッとします?
カメラマン氏 あー、若干あるかもしれないです。
鳥飼 やっぱりあるんだ……(笑)。見た目は同じくらいだと思ってたのに、年齢という数字だけで引いちゃうってことですか?
カメラマン氏 そうですね、ちょっと距離感は感じてしまうかも……。
――年齢は聞かなければわからないのに、数字として聞いた途端、扱いが変わる場面は、よく見かけますね。
鳥飼 そういう風に接し方を変えられることで、身構えちゃうことはあります。だけど、「30代になったら需要がない」と自分で勝手に決めつけてしまっているところもあるのかなって。
「男は40代、50代になっても、20代の若い女の子がいいんでしょ?」とか思っちゃいますけど、実際そんな人ばかりなのかというと、それもイメージや風説に惑わされている気もするんです。
「激しい恋愛」=「楽しい」も錯覚かもしれない
編集M これももしかしたら思い込みかもしれませんが、30代になるとなかなか楽しい恋愛ができなくなってきたんです。
鳥飼 楽しい恋愛ってどういうことですか? 深夜2時とか3時に「会いにきて!」って呼びつけるみたいな?(笑)
編集M そうですそうです(笑)。好きだと思ったら突っ走っちゃうような恋愛が、できなくなってるなって。20代の頃は、そういう浮き沈みも含めて楽しかったんですけど、最近はしんどくて。
鳥飼 それは、単純に体力が落ちたんですよ!(笑) 私も、深夜までケンカすると翌日の仕事に響くからできなくなってきて。「0時過ぎたら要らんことは言わないようにしよう」とかセーブするようになりました。だから、そういう激しい恋愛を続けたい人は、ジムに通って基礎体力を付けることをオススメします(笑)。
ただ、それが「楽しい恋愛」かというとまた別問題ですよね。だんだん自分がどういう人間かが見えてきて、これが恋愛だと思ってやってきたことが、年を重ねるうちに「板に付いてないな」と思ったら、やめたほうがいいです。大人になるって「自分の板に付いてないことはしない」ってことなのかも。
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