恋愛とセックスと便所と排泄物の関係は、切っても切れないと思います。
古くは『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』に本院の侍従に恋をした平貞文が、彼女への気持ちを諦めるために彼女の“し尿”が入った虎子筥(おまる)を奪った話があります。彼がその虎子筥の蓋を開けて匂いを嗅ぐと、彼女の排泄物ではなく丁子(クローブと呼ばれるスパイス)の煮汁と丁子の残片が入っていました。甘くて良い香りが漂う丁子を仕込んだ彼女の方が何枚も上手(うわて)だったため、結局彼は恋心を捨てきれなかったのです。
上図のように、春画では喜多川歌麿・勝川春潮『会本妃女始(えほんひめはじめ)』をはじめ、便所や女性の排泄シーンが描かれることは珍しいことではありません。たまたま、そういう雰囲気になった男女が人目を避けるために便所の中で立ったまま挿入し、短時間で気持ち良くなって便所から出てくる、なんて光景が描かれることがあるのです。便所でのセックスがどれだけ常習化されていたかはわかりませんが、隠れる場所がない男女が便所をセックスの場に利用することはあったのだと思います。
江戸期の便所の中には「月水早流し」と呼ばれる堕胎薬や「朔日丸(ついたちがん)」と呼ばれる有効か不明な経口避妊薬の広告が貼られていることがあります。女性がおしもの違和感に気が付き、思案する場所が便所だったのでしょう。
江戸期の便所は汲み取り式ですから、あのツンと鼻にくる狭い便所の中で避妊薬などの広告を目にしながら行うセックスにどんな感情を抱いていたのでしょうか。
江戸のセックスハウツーとおしっこの関係
江戸期の性典物(性のハウツー本)である月岡雪鼎『艶道日夜女宝記(びどうにちやじょほうき)』(1764年)に「ゆばりぶくろ、此玉ぐき当たれば女、善がると知るべし」という説明があります。
これは男根を挿入したときに、ゆばりぶくろ(膀胱)に男根が当たるようにピストンすれば女性の感度が増すという内容です。この内容を以前ツイートしたところ「有名な男優さんも、そのことについて言ってたよ」とリプライが返ってきたため驚きました。
膀胱に男根が当たるように挿入すれば気持ち良い、というハウツーが江戸期に存在したのならば、おしっこをかけるプレイなども江戸期のハウツー本にあったのかというと、不思議なことにそれは全く見当たりません。
江戸期は糞尿の黄金時代です。人間の糞尿は畑の肥料になるため重宝されていました。特に吉原遊廓の屋敷では客にごちそうが振舞われるため、卵や鶏肉、魚などの動物性タンパク質豊富な糞尿は肥料の下肥としての効果が高いと考えられていました。
しかし、それらの糞尿を肥料にして農作物を育て食べれば、どうなるか想像がつくと思います。江戸期の人々の体内には寄生虫が存在することが多かったのです。現代では衛星環境の改善に伴い「ぎょう虫検査(寄生虫卵検査)」は2016年度で学校健診の必須項目ではなくなりましたが、小学生の頃に学校で配布された肛門にシールを貼って定期的に検査が行われていたことを思い出しました。あの例の天使のキャラクターを覚えている方も多いのではないでしょうか。
一家に浴室がないことが当たり前の江戸期。洗濯機なども当然ないのですから、ババババとパートナーが布団に尿などを撒き散らしたら大変です。茶屋(現代のラブホテル)でのセックスにおいても、肛門性交を行う男色に良い顔をしなかった店主もいたようです。肛門を風呂場や浣腸できれいに洗い流せる現代とは異なり、寝具や部屋が汚れるリスクも大きかったのでしょう。
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