冬にセックスしちゃダメ!江戸時代はセックスできる日が少なすぎた件/春画―ル

歌川国貞「風俗三国志(ふうぞくさんごくし)」(天保三年〈1832年〉)

みなさんは「今日は大安だからセックスする!」「忌む日(不吉だから避ける日)なのでセックスはするべきではない」など、暦を見ながら判断をしたことがありますか?

江戸時代の書物の中には「セックスをしてはいけない日」や「セックスをしてはいけない場所」について書かれているものがあります。

“厳格”な女性向けの教訓書にはこう書かれている

歌川国貞「風俗三国志(ふうぞくさんごくし)」(天保三年〈1832年〉)

わたしは春画や性典物(セックスの考え方や色道の指南を書いた本)のほかに、女性向けに書かれた教訓書を読むことが好きです。この女性向けの教訓書はもともと中国生まれで、洗濯のシミ抜きや髪結いといった日常のノウハウを盛り込んだ和製の教訓書として展開されました。

この教訓書は女性にとってかなり厳格な内容で、「女(むすめ)の道」「婦(つま)の道」「母の道」つまり「女は親に従う」「婦は夫に従う」「母は子に従う」ことが前提で書かれたものでした。そういえば、真面目な叔母(母の妹)が割とフリーダムな私の母に「姉さん、“老いては子に従え”やで」と冗談交じりで諭していた場面を何回か目撃したので「江戸時代の価値観って現代でも引き継がれてるんだな、すげえなぁ。」と他人事のように眺めていたことを思い出しました。

この女性向け教訓書は様々な種類があり、中には寺子屋で読み書きを覚える手習いの手本として使われていたものもありました。そのため女性たちは幼い頃から自然とその教訓書の内容を手習いとともに覚えていきました。わたしが最近その存在を知った「女鏡秘伝書(じょきょうひでんしょ)」という上中下巻からなる女性向け教訓書は慶安三年(1650年)に刊行されて以来何度も発行されており、様々な世代の女性に読まれていたと思われます。

この本に「男女 和合せぬ時の事」という項目があります。これはセックスを避けるべき日や場所を女性に向けて記載しているのです。このように性行為について書かれている女性向けの厳格な教訓書は珍しいです。

男女和合せぬ時の事

天地震動し。大風大雨雷電。一日、晦(月末)、月蝕(月食の日)、日蝕(日食の日)、
庚(かのえ)申(さる)、甲(きのえ)子(ね)、節変わり、冬至この日忌むべし。又、所には神社、仏閣、賢聖の御影の前、井のもと(井戸のそば)、かまど、厠(かわや、便所)のほとり、日月の光の下、このところにて交合すれば鬼神災(きしんわざわい)をなすなり。又は、碁、双六(すごろく)、悲しき事に気を尽くし、腹の立つに気を逆上らせ、暴慢、又ゆきゝ久しくし酒に酔いて、また煩ひたるあげく、又、喜びしてひと月も斯様の折り節交合すれば血気潰れず筋骨弱り、身も枯れ渇き、病を致すなり。

(※読みやすいように一部漢字に変換し、読点などを付けています)

天候がとても悪い日や月末や月初、季節の変わり目など、セックスをしてはいけない日が多すぎます。これを守りきるのはけっこう難易度高い。とはいえ、神社仏閣でセックスしないのはとてもとても当たり前。井戸のそば、厠のそば、日月の光の下などは、ほぼ外なので意識しなくとも守れそう。

気候を含めた多くの現象が科学で解明されていなかった時代であれば、未知なる恐怖心から決まりごとは守るべきだと考えた方もいるかもしれません。