第8回:草凪優・著『夜ひらく』(前編)
モデルやレースクイーンが所属するバドガールコスのお店!?
下心が渦巻く、夜のギロッポン
今から十数年前のこと。当時大学生だったわたしたちの間で『バドの店』と呼ばれていた店が、東京・六本木にありました。
『バドの店』とは正しくは『バドガールと呼ばれる、バドワイザーのロゴのプリントされたボディコンワンピ―スを着て接客をするキャバクラ』なのですが、この店は少し変わった雇用システムを採用していました。
この店にいる女は3種類。
週4日以上出勤の『レギュラーメンバー』、週2~3日の『ヘルプ』、そして『登録』。
『登録』とは、事前に面接を受けてキャスト登録をしておけば、働きたいと思った日に電話をかけ、もしもその日に出勤する女の子の枠がまだ埋まってなければ出勤を許されるという完全取っ払いの日雇いシステムです。
東京の中でも最もチャラい六本木という場所柄か、
その店が求めていたのは、いわゆる『プロの女』ではなく『ちょこっと来てみちゃいました!』という好奇心旺盛な素人。
そんなギャルを大量に集め、合コンノリで接客するという方針を取っていたのです。
一方、わたしたちにとっても、同伴や指名などのノルマがないという気楽さに加え、ちゃっちゃっと夜10時くらいから始発まで働けば、一万なんぼゲットできるというのは、十分に美味しい条件でした。
なので、暇な週末があると「バドっちゃう?」と友達と申し合わせては、日比谷線に揺られて出稼ぎへと向かったものでした。
しかし、何度がその『バドの店』に出勤していくうちに気が付いたことがありました。
それは、やたらと綺麗な女性が多く働いていることです。
わたしたちのような『登録』は別として、レギュラーやヘルプの女の子たちの、ルックスのレベルがやたらと高いのです。
「さすがはギロッポン……」
そう感心していたある日のこと。常連だという男のひとことで、その謎は解けました。
「この店、芸能プロダクションが運営してて、所属してるモデルとかレースクイーンを働かせてるんだよ」
なるほど。女の子たちのレベルに関してはそれで納得できましたが、
しかし、なぜ芸能人様が夜の商売などやっていらっしゃるのか。
ファンとかマスコミとかに見つかったらまずくね? つーか芸能人ってお金持ちなんじゃないの? とまだウブかったわたしを、その常連客は鼻で笑っていいました。
「モデルだレースクイーンだで食えてるのなんて、ごく一部だし、こういう店でコネつけようって考えてる女も多いからね」
というわけで、前置きが長くなりましたが、今回紹介する一冊は、『夜ひらく』(草凪優著:祥伝社文庫)。
ヒロインの上原実羽は売れないモデルです。
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