私たちの心に刻まれた感情とは?
司馬江漢《艶道増加が見(びどうますかがみ)》
なぜ「末永く仲良く暮らしましたとさ」が「めでたしめでたし」なのか? の疑問を解き明かすために、日本が生まれたときの神話や「高砂」の謡曲や婚礼の文化を紹介してきたが、どれも「夫婦の和合は子孫を繁栄させるおめでたいもの」や「夫婦がいつまでも健康で仲が良いこと」が願いとして込められていた。
現代人が『仲睦まじい老夫婦』を通して見ていているものは、わたしたちが無意識に求め続けている「安定してやすらぎのある人間関係」ではないだろうか。
陰陽和合や謡曲「高砂」をめでたいと感じる感情のエッセンスは、まだわたしたちの中にもあるのだと思う。
最近、「セックスにおいて女性は男性よりも人間関係を重要視する」という研究結果が数々出ているというのを何気なく小耳にはさんだ。しかしながら、安定した人間関係はセックスだけではなく生活の質を高め、そのひとの幸福や肯定感にも大いにつながると感じている。
たとえ末永く暮らせなかったとしても、離婚のハードルは歴史を振り返るとずいぶんと下がってきた。でもやっぱり、ご縁があり誰かと一緒になれたなら、『あなたと一緒になって、本当に幸せよ』って言いたいと思う。
瑞々しかった肉体にシワが出てきて、少し小さくなった後姿。
ふたりとも白髪になっても、きっと高砂の老夫婦みたいなふたりなろうよ。
きっとそれは誰かの『めでたし、めでたし』なのだから。
Text/春画―ル