女性向けAVは「AV OPEN」で勝てるのか

 それにしても、ふだん男性向けAVばかり作っている「kawaii」はなぜ、『兄カノ。』を撮ったのだろう。
機会があればぜひ制作者に直接訊いてみたいと思うが、いま私が邪推するに、「AV OPEN 2015」で勝ちたかった、というのがその理由ではないか。ここで、興味深いポイント3つ目の、このAVが「AV OPEN 2015」のエントリー作品であるという点につながる。

「AV OPEN」とは、アダルトコンテンツ業界の発展・振興に寄与することを目的とした、国内史上最大規模で行われるアダルトビデオの祭典である。
2006年に第1回が開催され、2007年、2014年、2015年と回を重ね、今年で第5回目となる。『兄カノ。』は去年のエントリー作品だ。

 エントリー作品の売上合計金額によって、部門・総合のグランプリが決定する。
ちなみに、2014年からは「Japan Adult Expo」というAVファン感謝祭で結果発表が行われており、ここ2年、私は会場で発表を目にしているのだが、あれは凄まじい熱気だ。
「この場にいる全員エロが好きなんだな」と思うと不思議な感動を覚えるので、興味があればぜひ行ってみてほしい。
余談だが、初めて行ったときは、名誉総裁のリリー・フランキーが審査員特別賞18作品のタイトルを「『小便アイドル』、『素人マスク性欲処理マゾメス淫語ザーメン』……」と最低な寿限無のようにずらずら高速で読み上げるのを聞いて頭がくらくらしたものだ。

 さて、「勝ちたくて女性向けを作ったのではないか」とはどういうことか。つまり、作戦はこうだ。
2015年のエントリー作品は88作品で、そのうち女性向け作品は1作品のみだった。
したがって、男性による売り上げは87作品の間でバラける(しかも、さくらゆらファンは『兄カノ。』も買うかもしれない)。
しかし、女性の票はある程度『兄カノ。』に集中すると仮定すれば、全体としてAVファンの女性の数が男性の数をかなり下回っていたとしても、『兄カノ。』は相対的にかなりの売り上げを記録するはずである。
「kawaii」はこの可能性に賭けたのではないか。たとえ「kawaii」にそういう意図がなかったとしても、勝ち筋はこれしかないだろう。

 だが最終的に、『兄カノ。』は「AV OPEN 2015」で一つも賞をとることはなかった。
ちなみに、2014年にはSILK LABOが『Girl’s Pleasure 古川いおり』でエントリーしているが、これも受賞には至っていない。
結局、女性向け市場は、男性向け市場と比べればほんのちっぽけなものにすぎないのか?
AVは男性のためのものでしかないのか?

 本日7月12日、「AV OPEN 2016」エントリー作品の情報が解禁された。
しかし、今年はとうとう女性向けを謳うAVは1作もエントリーしなかったようだ。
女性向け作品に、もう勝ち目はないと判断されたのだろうか?

 それは分からないし、もちろん「AV OPEN」に参加するのが偉いわけでもなければ、数が売れるのが偉いわけでもない。
奥深く幅広い性の世界におけるマニアなニーズに応えるのも、AVメーカーの重要な職務だ。

 だが、AVを買って観る女性は「マニア」なのか?
もしかしたら、そうなのかもしれない。ただし、今のところ。

 女性がAVにお金を使うことも(使わないことも)、もっと普通で、自由であればいいと思う。
いつかそれが達成されたならば、それはひとつの革命だ。

Text/服部恵典

 次回は《「女性のエロスイッチは視覚ではない」は本当か?――ポルノの男女比較、日米比較》です。