幻冬舎×AMが特別コラボ!危険な官能小説をお届けします。
【あらすじ】
南の島へ夫と旅行に来た彩夏は、ホテルの近くのバーでミステリアスな駿という男性に声をかけられ、彼の部屋番号と携帯番号を受け取った。その夜彩夏は、夫に抱かれながらも、もしこれが彼だったらと、駿の日焼けした肉体を想像するのだった。
第2回 危険な香りに誘われて
「よくいらしてくれた。さあ、どうぞ」
ヴィラの玄関に現れた駿は真っ白なバスローブを着ていた。きのう初めて会った時と同じ、人なつこい笑顔を見せた。
「すみません。おくつろぎだったのですね」
「いや、くつろいでいるといったら、一日中ですから」
ビーチ近くに建っているヴィラは、五つ星のRホテルの中でもかなり高級なタイプだ。彩夏が滞在しているのは5階建てのタワー棟の中では広い方のプレミアデラックス・ルームだが、そこに比べても数倍の料金だろう。
「広いですね」
「時々広くて面倒になるんですよ」
そんな風に言っても彼の言葉なら嫌味にならない。それほど好感度が高かった。
部屋はリビングと寝室に分かれているがリビングルームが広く、ソファに小さなガラステーブルが置かれたコーナーと、ダイニングテーブルに椅子のエリアに分かれている。さらに奥にはキッチンがあるようだし、ベッドルームはドアで仕切られていた。
「タワー棟の方はコンパクトなお部屋です。もっとも日本に帰っても同じだけど」
「余分なものはない方がいいんですよ。ヴィラに決めたのは僕じゃない」
「それなのに奥さまは出かけてばかりなんですね」
「きょうはこっちに住んでいる友達とP島に行ってますよ。泊まりがけで」
「あら、じゃあ、おひとり?」
「そちらもでしょ」
彩夏は彼の含み笑いに少しだけ反応した。部屋を見てみたいと、どうにでも受け取れる内容のメールを送ったところ、すぐに返信がきて招かれたのだ。夫は早朝からダイビングに出かけていた。きょうは彩夏も体験ダイビングをしてみる予定だったが体調がいまひとつと言い訳して断ったのだ。
「外のプールを見てもいいですか?」
「どうぞ。狭いですけどね」
ガラッと開けたサッシの戸の向こうはプライベートプールだ。彩夏は裸足で出てみた。ビーチチェアが2台設置され、それぞれにバスタオルも置かれていた。プールは確かに小さめだが長い方が15メートルぐらいだろうか。もっともここでムキになって泳ぐ客もいないだろう。広いプールはホテル内に2箇所あるのだ。
「日が当たるから、水はそんなに冷たくないんですよ」
彼は何のためらいもなくさっとバスローブを脱ぎ捨てた。全裸になったかと思うとあっという間にプールに飛びこんでしまった。一瞬だったが彼のすべてが見えたのだ。彩夏は思わず息を飲んだ。
「ははっ、あなたもどうです。気持ちいいですよ」
水から頭を出して手招きした。
「え、でも私、水着がないし」
「プライベートプールですよ。素っ裸でぜんぜんOK」
「そんな……」
しかし、彼が気持ちよさそうに泳ぐ姿を目の当たりにすると、彩夏はひどく心を惹かれた。ゆったりしたコットン地のワンピースの下は、肩ヒモなしのブラと小さなパンティだけだ。
「さあ、早く」
なぜか彼の言葉には逆らえない力があった。決して強制的ではないのに、思わず言いなりになってしまう不思議な力が。
ワンピースはすんなりと脱いでしまったが、さすがに次のステップには勇気が必要だ。
「どうしたんです? 下着で泳ぐなんて野暮もいいところだ」
彼はざぶっと水面下に潜ったので、彩夏はその間に思いきって下着を取った。
飛びこんでみると確かに水は生ぬるかった。全裸でプール……何という開放感だろう。
「気持ちいいでしょう」
顔に貼りついてしまったロングヘアを掻き上げながら彩夏は頷いた。水の中なので全裸とはいえ羞恥心はあまりなかった。
駿は彩夏の存在など気にも留めない様子で狭いプールを泳ぎ回っていた。
「あ、このプール、こんなこともできるんですよ」
彼がプールサイドのスイッチを押すと突然、中で勢いよく水流が発生した。
「あら、ジャグジー」
「しばらく楽しんでってくださいよ」
すると彼は急に背中を向けてプールから上がった。逞しいヒップと日本人ばなれした形のいい脚。水から上った体はきらきらと輝き、彩夏は目がくらみそうになった。
バスタオルで体をくるむと駿はさっさと部屋に戻ってしまった。「濡れないようにあっちに置いておきますよ」と言って、彩夏の服と下着も持って行った。
ジャグジーの刺激はとても心地よくて、他人の部屋のプールに全裸で入っているという異様な状況も忘れそうになっていた。すべてのこの灼熱の太陽が気持ちを狂わせているのだ……彩夏は降り注ぐ陽光に目を細めながら空を見上げた。
しばらく待ったが彼は部屋の中に消えたきり戻ってこなかった。見るとプールサイドのチェアに置いてあったはずのバスタオルが2枚とも消えている。服と下着も彼が持って行ってしまった。彩夏は全裸のままプールに取り残されたのだ。おそらくこうした造りの場合、戸は外からは開かない仕組みになっているだろう。念のためそっとプールから上がって、手で前を隠しながら引き戸に手を伸ばしてみたが、ぴたりと閉まったままびくともしない。
「あの、すみません……」
身をかがめてチェアに隠れるようにして声を出してみた。小さくノックもしたが、何しろ広いヴィラだ。彼がシャワーでも浴びていたら声など届くはずもない。完全に放置されてしまい途方にくれていた。
するとその時、がさがさっと木が揺れて垣根の向こう側に人の気配がした。彩夏はきゃっと小さく叫んでさらに身を縮めた。
Text/真野朋子
幻冬舎×AM特別ページ