「別にいい」で自分をあきらめないこと

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 ひょんなことから、20代前半の女子たちに囲まれてディナーをすることになった。
三十路目前の自分はまだ若いつもりでいたが、彼女たちの会話はどこか遠い文化の言葉にしか聞こえない。
もちろん、そんなのについていけるわけもなく、手元の赤ワインばかりが進む。

「この子、付き合って数週間しか経ってない好きでもない男にお酒飲まされて、酔った勢いで処女喪失したんだって。キャシーさん、どう思う?」

 急に飛び出したその話題で、その場の空気は一気に変わった。
いきなり御意見番に指名されて、しかもこんな重いトピックをポンっと投げられては、もう逃げ場はない。
とりあえず何か無難なことを言おうとした瞬間、処女を喪失したばかりという本人の口が開いた。

「別にいいじゃない! そろそろ処女捨てようと思ってたし、ちょうど機会が目の前にあったから、やっただけ。他の人にどうこう言われる筋合いはない」

 他の人たちは納得がいかない様子だった。
きっと彼女のことを気遣ってのことだろう。
その間に挟まれて何も言えずにいる自分は、ごくごくと赤ワインを空腹に流し込んだ。

 そもそも、今の若い女性にとって処女喪失にはどんな価値があるのだろう。
きっとゲイ男性である自分とはまた違う見方があるのかもしれない。
特に思い入れもない人と、「童貞」も「処女」もあっさりと捨て去った午後のことは思い出の中に懐かしく残っている。
それほど自分にとって大事なものではなかったから、別に良かったのだ。

 彼女が言った「別にいいじゃない」が処女であるということに対してのものなら、それで良かったのだろう。
どうやって処女を喪失するかは、彼女が決めればいい。
しかし、もしその「別にいいじゃない」が彼女自身に対してのものなら、彼女の友達たちが心配になってしまうわけもわかる。