例えば、他人に恋愛感情や性的欲求を抱かない無性愛者(アセクシュアル)の人はそれを見たらどう感じるのだろう。自分でさえこんなに窮屈な思いをしていると考えると、恋愛やセックスをしない彼らは毎日どれだけ傷ついてるのか想像に難くない。

「アセクシュアルというアイデンティティがあって、他にも同じように感じている人がいることを知るまで、私に何か問題があるんじゃないかってずっと自分を責めていた」

 そう語るアセクシュアルの友人は、できるだけテレビ番組や映画、音楽から自分を遠ざけるようにしている。そうでもしないと平常心を保てないらしい。

 恋愛やセックスは決して悪いものではない。セックスポジティブな立場を取るこのコラムでは、常にセックスを楽しくて、気持ちよくて、セクシーでヘルシーな行為として書いている。しかし、あくまでもセックスはただのセックス。しなくたって何も問題は無い。それは個人の自由だ。

 誰もがいつか運命の人と出会って、恋に落ちて、幸せな家族を築くとか信じている人がいるなら、それはただのおとぎ話であって現実ではないということに早く気付いてほしい。そのナイーブな考えは知らないうちに、「恋愛やセックスは誰もが経験するべき、人生に必要不可欠なもの」というプレッシャーに変わり、他人の背中に重くのしかかる。

 幸せな恋愛に必ずしもセックスが必要ではない。最高に気持ちが良いセックスに愛情がなくても不自然ではない。恋愛やセックスをしなくたって、充実した人生を送れないわけではない。
人間はおとぎ話より遥かに豊かで、自由で、多彩だ。そこに圧力は必要ない。

Text/キャシー