「姫初めを教えてくれてありがとう」出会って7年後に初めてのエロ/中川淳一郎

その年が明けて最初のセックスのことを「姫始め」と呼ぶが、この言葉を誘いに使うと相手が呆れて笑い、それでそのまま「いいよ」と言われる経験を何度かした。香澄さんとは年に1回だけ会うような関係だった。元々は大学時代の1学年先輩で、3年次の英会話の授業ではなぜかいつも隣に座るような関係で、我々はいつも会話の相手をし合った。

香澄さんが新入社員になった年のある日、就職活動中だった僕は神保町でバッタリと彼女に出会った。

「ニノミヤ君……、だよね……」
「はい、そうです」

こんな感じで久々に再会し、香澄さんの名刺をもらった。総合商社に入っており、仕事はまだまだ見習いのような状況だと言った。しかしながら、就職活動のやり方やら面接対策など何も分からない僕は香澄さんに今度就活の体験記を教えてください、とお願いした。彼女は「いいよ」と言い、1週間後に神保町の飲み屋で会うことになった。

2階にあるバーの向かい合う席で僕らはビールを大量に飲み、コーンアンチョビピザを食べた。基本的な対策としては、「何かを聞かれたら、自分が主張したいことを言うのではなく、聞かれたことに素直に答える」「ハキハキとする」「緊張しているのであればそれはそれで構わない」といった点を挙げられた。

こうしたこともあり、無事内定を取れたので、香澄さんとは僕の卒業間近に卒業祝いを同じバーでやってもらった。そして翌年、社会人1年目が終了する直前の3月に再び同じバーで飲んだ。こうして思い出したかのようにその後も年に1回、2月か3月に会い、その1年間を互いに報告し合うようになった。

香澄さんが僕の手を両手で握ってきた

6年目は「今年は新年会にしようか」ということで、仕事開始日の1月4日、神保町で会うことになった。いつものバーは休みだったため、居酒屋へ。本格的に仕事始めとはなっていないため、街は全般的に空いていた。そんなわけで、我々はセカセカした空気感がない、正月の雰囲気がまだ残る中、じっくりと飲んだ。

話は英会話の授業に始まり、突然の街での再会、そしてその後の終活や互いの社会人生活になった。そして、しみじみとしたところで香澄さんはこう言った。

「私がニノミヤ君に初めて会ったときは21歳でニノミヤ君は20歳。でも今年は28歳と27歳になるんだね。人生の3分の1ぐらいの期間、私たち知り合いってのがちょっと驚いた」

続けて彼女は「ねーねー、それってすごいことじゃない? 小学校のときの友達よりも付き合いが長いんだよ!」と言い、テーブルの上で肘をついていた僕の手を両手で握ってきた。彼女は明らかに酔っ払っているし、なんだか楽しそうだ。これまでの経験上、香澄さんの頭の中で「セックスしてもいいかな」的な感情は85%を超えていると見た。

そこで僕は「香澄さん、これからひ、姫始めしませんか?」と聞いた。彼女は手を握りながらポカンとし「ヒメハジメって何?」と聞く。僕は手帳に「姫始め」と書いたらピンと来たようで、「あぁあぁ、そういうことね、いいよー。どっか知ってる?」と言う。

そこですぐに会計をし、タクシーで湯島のラブホテル街へ。出会ってから7年経った香澄さんとついにエロをする日が来た。タクシーの中では手を握り合う。そして彼女は僕の股間を触ってきた。「もう硬いね、気が早いって!」