体調が優れないときもマスターベーションで解決?!

同じく『秘事作法』に「養補益の作法」という項があります。

それ何れも、精を交え、其の精、心肝に戻して用と為し、諸病を消除し、脳を利となし、五体強壮とすると在り。

『秘事作法』「養補益の作法」より

文中にある「精」とは、女陰や男根より出る精水や愛撫により性器から流れ出る先走り水、唾などを指し、これらは百薬に勝るほどの滋養があると考えられていました。書物には、気分が鬱々としたり、眠れない、首や肩が重たいなどの症状もなんとマスターベーションにより快復へと向かうと述べられています。

有名なユーチューバーさんが「精液の99%は麻薬成分」という驚きの研究結果を紹介し、その効果について語っていましたが、まさか江戸期より精液の効能や、マスターベーションによるストレス軽減効果などが自然と理解されていたということでしょうか。

諸病があるときのマスターベーションの方法としては、通常の礼法のときのように精水を陰部から出さないことと述べられています。つまり、滋養である「精」を体外へ逃がしてしまわぬ様にするということです。他の女中に男根を模した性具や指を使用してもらい、親しく密に行ってもらうこととあります。同じ職場の仲間に指などで愛撫してもらう……というなかなかハードルが高くみえることをするわけですが、男子禁制の「奥」の空間ともなると、それだけ性にオープンな場面もあったのでしょうか。それとも諸病を快復させるために行うのだから、後ろめたさや恥ずかしさよりも「体調を良くしたい」という気持ちのほうが勝ったのでしょうか。

眠りの質もマスターベーションで解決

鳥橋斎栄里『婦美の清書』1801年 国際日本文化研究センター所蔵 貝殻に入っているのは陰部に塗る媚薬

眠りが浅いときの礼法を見てみましょう。
まずは厚手の布などを尻の下に敷き、両脚を開いて伸ばし仰向きに寝ます。もう一人は男根を模した性具を相手に深く挿入してあげ、そのまま回しこするように動かします。仰向きの人は自分の乳を締め揉むように刺激します。

立って礼法を行う場合、挿入してあげる人は起立している相手の前に座り、性具を深く回しこするように挿入し、さねたれ(クリトリス)裏を軽くこすります。起立している人は自分の乳を大きく揉みます。注意点は、精水が流れ出てくる前に礼法を止めること。一日に何度かこの礼法を行えば、数日でよく眠れるようになるそうです。

この礼法は飲酒中や大小便を我慢して行うことはよろしくないとされ、大食いしてしまったときにも胸を病んでしまうため避けるようにと述べられています。

マスターベーションは自分で行うものと思い込んでいた人々にとっては、この書物の内容は衝撃だったかもしれません。これらの情報は江戸初期のものであり、病状が現代のように解明されていないときのものとはいえど、「なるほど……」と思ってしまう内容もあります。

マスターベーションなどの性的な行為を後ろめたいものと考えていなかった江戸期において、大奥の女中たちは日ごろの仕事の鬱憤などをマスターベーションで発散していたのかもしれませんね。

Text/春画―ル

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