「私たち、してますよね?」2人とも記憶がない泥酔セックス/中川淳一郎

今回は相当エロい話であったはずなのだが、厳密にはまったくエロくないという妙な体験について書いてみる。僕がよく行くバーで時々出会う仕事帰りの女性がいた。彼女は20時から21時頃やってきて、チーズやナッツをつまみにビールを飲み、ジントニックなども大量に飲み、23時頃酔っ払って帰って行くのがルーティンだった。ある日の22時30分頃、彼女はカウンターの席を詰めて僕の方にやってきた。僕は34歳。

「よくお見掛けしますよね、お名前なんていうんですか?」

彼女は若干呂律が回らない感じで僕に声を掛けてきた。

「ニノミヤです。この辺に住んでいます。仕事が終わってここで飲んで帰ることが多いです」

彼女は朋子さんといい、バリバリの高年収のシングルマザー。42歳で高校2年生の息子がいるのだという。息子は夜は塾へ行っているため、自分でコンビニで弁当を買ったり、時には朋子さんが夕飯を冷蔵庫に入れてそれを食べさせているので夜は面倒を見ないでいいそうだ。ただ、寝る前に顔は合わせたいので、23時には必ず帰るようにしているという。

そして、彼女は滅法酒が強い。僕も相当酒が強いのだが、あるときなど2時間で2人で14本の中瓶のビールを飲んでしまったこともある。この最初の会話から3回目のカウンターでの時間だった。この日はどうやら次回も会う約束をしたようで、普段よりも早い19時開始だった。

この4回目の飲みでもビールを12本飲み、2人ともヘベレケになってしまった。そして、21時頃、なぜか僕の家に行くことになった。自宅の冷蔵庫にある缶ビールを2本出し、2人してクッションに座り、テーブルで再度宴会を開始した。

自宅で宴会を始めたものの…

そこから先の記憶がまったくないのである。ただし、彼女が「あっ、もう23時だから帰らなくちゃ」とコートを着ているところで正気になった。そして僕はベッドの上で全裸だった。慌てて服を着て、彼女をマンションのドアのところまで送っていき彼女がエレベーターに乗る後姿を確認してから一体何が起こったのかを考えた。

全裸だったということは間違いなくセックスはしているのだろう。かすかに部屋には彼女の残り香があるし、ベッドのシーツは乱れているし、彼女のロングヘア―が枕には残っていた。そして決定的だったのが、透明に近くなった精液入りのコンドームが2つ結ばれてあった。僕は射精をした後、コンドームの中に、絞り出すようにして1回分の精液を出すようにしている。そして、結ぶ。これを見て多くの女性は「すごいいっぱい出たね! 触らせて!」と言うことが多い。

精液というものは、発射されたときは白濁しているが、しばらく置いておくと若干サラッとし、透明に近くなるもの。2つとも射精から一定の時間が経過していることが読み取れた。だが、まったく思い出せないのが、射精の瞬間である。いや、もっと言うと彼女とエレベーターの中や、クッションの上でディープキスをしたことは覚えているのだが、彼女が裸になったこと、その後の前戯、彼女のアソコのにおいなどもまったく思い出せないのだ。

これは完全にアホである! セックスというものは、そこに至るまでの「いい雰囲気」から「こりゃ今から行くぞ」というお互いの駆け引き、少しずつ肌を露出させていく演出、そして互いに愛撫しあったり舐め合ったりするところから始まり少しずつ盛り上がり、「挿入」というクライマックスに行く過程を楽しむものである。

さらには、「いいチンコね、私、あなたの好きよ」やら「きれいなおっぱいですね」などといった会話、さらには喘ぎ声や悶えっぷりを見ることも含めて最高の娯楽なのだが、それを一切覚えていないのである。射精の快感さえ覚えていない。あぁ~、なんであんなに酒を飲んでしまったのだ! そう後悔するも、この日は終わってしまった。また次回があることを期待し、今度は飲まないぞ! という決意をした。