江戸時代にクリスマスの春画?
すっかり寒くなり、炬燵とお鍋が恋しい季節になりました。
人々の営みが描かれている春画には移り変わる季節の変化、そこに根付いてきた文化や風俗もまた描かれることがあります。ときには絵師の遊び心も加えられ、我々の予想を超えた表現になることがあります。
たとえばトップ画像の春画を見てみましょう。暁鐘成の『万交区神話』(1852年)の図には「根弗利亜国(ねぶりアこく※ねぶるは舐めるの意)の男女、雪氷の上を舟に乗(のり)、鹿に引せて契行(ちぎりゆく)之圖(ず)」と書かれています。「江戸時代にクリスマスの春画?!」と驚いてしまうのですが、よく見るとトナカイではなく鹿が氷上で舟を引き、サンタクロースではなく半裸の男女が雪降るなかで交わっているというクレイジーな場面。こりゃ陰毛も愛液も凍りますよ。
図の左には「此(この)ありさまを麻茎陀人(まらんだじん)の見てよめる狂哥」と書かれ、異国風の創作文字が書かれています。この春本には顔が性器のラクダや、東西をふたつの半球で描く蘭学系世界地図の性器に見立てた絵が描かれています。おそらく暁鐘成は西洋の文化が描かれた書物や絵を見て、この鹿が男女のセックスを運ぶというアイデアを思い付いたのでしょう。果てる頃にはふたりはどこへたどり着くのやら。
寒い中で歌の練習をしていたら
こちらも見ているだけで冬の冷たい空気が伝わってくる春画です。題句には「寒声や 丁度調子の 合うた同士(どし)」とあります。若い男女はおそらく音曲(三味線と合わせてうたうこと)を習っており、二人きりで寒い中で練習をしていたのだと思います。そのうちいい雰囲気になって交わりはじめたのでしょう。娘は少年の男根を握り、自分の女陰に当てがいながら、何気なくこう言います。
娘「お前、この頃、声変わりしたね」
少年は自分の身体の変化に気が付いた娘にドキっとしたのか、
少年「これは厳しいご詮議だ」
と答えます。春画の研究をされている早川聞多先生は、「少年は『声変わり』と『こころ変わり』を聞き取り間違え、自分の気持ちが他の女性に向いていることを指摘されて一瞬ひるみ、娘の疑惑を打ち消すために一儀に持ち込んではないかと読まれています。(『おとなの愉しみシリーズ1 春画』すばる舎リンケージ)
題句は、調子が合ったのは三味線と歌声だっただけではなく、二人の相性が合ったという意味もかけ合わせています。二人の一儀は誰にも見られていないかと思いきや、向こうの屋根の鬼瓦は「うへへへ」と二人を見つめています。
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