彼からの告白

 さて、そのときの「心療内科にかかっていた」という発言に、私は何か引っかかるものを感じてもいました。
あくまでも過去のこととして話しながら、それを自分の抱えるリスクとして話す彼に違和感を覚えていたのです。
例えば職場や人間関係などが原因でうつ状態になり心療内科を受診し、寛解して今は通院も投薬もしていないのだとしたら、過去にそんなことがあったということをそこまである種の切り札のように話すだろうか?と思ったのです。なんとなく、いまも彼は継続して通院しているんじゃないかなぁと思ったのを覚えています。

 そんなことがありましたので、交際がはじまってから彼に「実はいまも通院している」と聞かされたところで「やっぱり」としか思わなかったのです。

 話したくなければ話さなくて全く構わないんだけど、と前置きしたうえで彼にどんな症状があるのかを尋ねてみると、職場の風潮が自分の性質とあまり合わない上に、職場と家を往復するだけの生活が続いて無気力感が強く、軽い抑うつ症状があるとのこと。言っちゃ悪いがめちゃくちゃよくある話だなぁと思ったので、「それはたぶんそんなに珍しいことではないので、軽視してはいけないけど必要以上に思い悩むこともないと思う。私っていう存在が現れてこれからは少し状況も変わるし、良い方向に向かうといいね」と言いました。

 更にその頃の我々はセックスに困難があり、彼はそれを少し気にしているようでした。私は「まぁそんなこともあるでしょうよ」と思っていて、「いくらでも方法はあるし、気長にいきましょう」と声をかけたりしていたのですが、心療内科に通っているというカミングアウトを受け、ピンときた私は彼に尋ねました。「薬は何か飲んでますか?」
調べたところ、彼に処方されていた抗うつ薬の副作用に、困難の原因となる症状がありました。
見つけたときは二人して「これやー!」と結構テンションがあがりました。

 それからも彼は心療内科に二週間に一度くらいの頻度で通い、彼の診察中に私が近くのスタバで本を読みながら待つというデートが定番化しました。
カミングアウトから三ヶ月ほど経つ頃には主治医から通院と投薬の必要なしと診断されました。薬の副作用がセックスに困難をもたらしていると分ってからは主治医に相談したうえで減薬してもらい、セックスの困難も解消しました。
余談ですが、彼が診察中に「パートナーが出来てから休日が楽しみで、気分がずいぶん良いです」と主治医にウキウキと話したところ、めっちゃ冷静に「でしょうね」と言われたそうです。ちょっと面白いやないかい。

 彼の転職が決まりすっかりメンタルが安定してきた頃に、このときのことを「隠さず話してくれて助かったよ、私の対応で何か嫌だったり、傷ついたりはしなかった?」と尋ねたことがあります。
彼は「心療内科に行って治療を受けるのも、セックスが上手くいかないのも今までにない経験で常に不安があったけど、あなたがどちらに対しても『特に珍しいことじゃない』『いくらでも治す方法はある』とフラットに受け止めてくれたから、なんとなくそんなもんかなと思うことができて気が楽になった」とのことでした。

 今回のケースでは、私に心療内科通いの経験が(ありすぎるほど)あったことや、私がレズビアンで、「挿入や射精を伴わないセックス」が当たり前だったおかげで彼にとってのイレギュラーをフラットに受け止めることができたのだと思います。

 あとは私の両親が何かにつけやたらと大げさでこちらの不安を煽るようなリアクションをするのが大嫌いだったので、絶対に自分はそういう振る舞いをしないておこうと意識していたのも大きいと思います。

 さて、次回は私が彼にADHDであることや、婦人科系疾患があること、両親との関係をカミングアウトしたときのことをお話しします!