夫の尊敬しているところ
ところで話は変わるが、花丸の次に良いところは「いい意味でぬるい」点であった。
年を取ると、フィクションがきつくなる。「おもしろそうだがこれを見て、万が一俺様の心が傷ついたら大変だ」という防衛本能が働くため、最近では「火薬とCGにかける予算がでかいほど尊い」みたいな、アクションものしか見れなくなっている。最終的に、マッドマックス以外を見ると吐くようになるだろう。
また漫画家なんかになってしまったせいで、漫画や漫画原作のものはほぼ受け付けなくなった。先日も他所の担当に「逃げ恥見てますか?」と聞かれたが「おもしろいのはわかっているが、あれは漫画原作ではないですか。私は同業者のサクセスを見ると、体中に青紫色の発疹が出来て死ぬんです」と答えた。
「顔も知らない人間のサクセスに、親を殺されたが如く怒れる」というのは、神が私に与えた数少ないギフトなのだ。
よって、楽しめる創作物は子供の時に比べると、1%ぐらいに減っている。私に残されたエンタメは、ひたすらソシャゲで単純作業か、虚空を見つめて飛蚊症患者が見るようなあのモヤモヤしたヤツをひたすら追うしかなくなっていたのだ。
なので、花丸を見るのも実は怖かった。好きゆえに、余計その内容に傷ついてしまうのではないかと。
しかし、蓋を空けると、人を傷つける要素がない激ぬるだったのである。真面目な部分もあるが、基本的に和気藹々としていたし、何より、みんな仲が良かった。
またキャラも難易度低めに設定してあった。「釘が甘い」のだ。こじらせキャラも協調性ないキャラも割とちゃんと共同生活をしていた。何度も「この山姥切と大倶利伽羅はイージーモードだな…」と思った。
BLや夢という性癖を越えて「好きなキャラ同士が仲がいいと嬉しい」のである。
このように、花丸は胃の粘膜が全壊している私にも優しいうどんのようなアニメだったのだ(実際花丸には長谷部がうどんを作る神回があるのだが、話がこち亀全巻ぐらいになるので割愛する)。やっぱりアニメはおもしろいし、見ず嫌いは良くない。アニメも漫画原作以外のものは(そこで相当絞られる)、もっと見ていきたいと思う。
蛇足になるが、夫婦の正月の話である。
と言っても、私も正月休みはなんやかんやと仕事をしているし、夫も仕事納めが12月30日で仕事始めが1月2日とかなので、あまり正月休みという感がないのだ。
元旦に夫の実家に集まり、二日に私の実家に行くというのが恒例になっている。毎年飽くことなく同じことを繰り返しているという感じで、これといったことは起こらない。
正月だけではく、我々夫婦は、ワーホリ気味であるのだが、私の忙しいと夫の忙しいは質が違うと思う。
私の仕事は、会社はさておき、作家業は一人仕事だし、その点では楽だ。だが夫は、会社の中で大勢と働き、さらに中間管理職としても忙しい。私にその忙しさはとても無理だ。
それに、私は本当に私だけのことをして忙しいと言っているが、夫は忙しい中で、家のことや時に私の世話までするので頭が下がる。
夫は去年10年近く勤めた職場から異動になったのだが、その時、職場の人間から送られた寄せ書きが玄関に飾られている。
その寄せ書きも普通の色紙などではない、実に手が込んでいるのだ。大きなコルクボードに、職場で撮ったと思われる写真の切り抜きがあしらわれ、色画用紙などがふんだんに使われて実にカラフルである。
それを見るたびに、夫は、前の職場で、皆に慕われていたのだなと思う。私は協調性がない上にいつも自分の事ばかりなので、絶対にそんな物はもらえない。その点は本当に心から尊敬しているし、誇らしく思う。
だから私はその寄せ書きの前に、もちろん自腹で購入した「ねんへし」を飾った。
そういうところがダメなんだと思う。
※2016年12月31日に「TOFUFU」で掲載しました
Text/カレー沢薫
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