「本当にごめん、これを」

正直、ケンカはしたことがない。

ここで言うケンカとはお互いの言い分がぶつかり合うケンカのことだ。

夫は我慢強い方だし、それでも我慢できずに言う私への小言は、全部夫が正しいため、私は黙るか「悔い改めます」と言うしかない。実際悔い改めるかは置いておいて、言い返すことがないため、ケンカにはならない。

夫は夫で、これと言った悪事を働かないし、もちろんイラつくことは多々あるが、わざわざ怒るほどのことではないので私も夫に対しほとんど怒ったことがない。

では今までで一番怒ったのはどんな時かと言うと、夫から「飲み会があるので、迎えに来てくれ」と言われたときだ。

もちろん迎えにぐらい行くが、呼ばれた時点ですでに午前一時であり、行ってみると夫の同僚がおり「この二人も送ってくれ」と言われた。結局家に帰り着いたのは午前三時ぐらいだったと思う。

次の日は休みだったが、厳密には会社が休みなだけで、むしろ作家業は休みの日が肝だ。平日と変わらず七時ぐらいに起きて仕事を始める。その日も寝たのは午前三時だが午前七時ぐらいには起きた。

すると今度は「職場まで送ってくれ」と言われたのだ。職場まで往復1時間。たかが1時間、されど休日の午前中という最も仕事がはかどる時間帯である。

その時点で相当私の機嫌は悪かったが、さらに、昨日乗せた夫の同僚の一人が、後部座席にあった物を自分のものと間違って持ってかえっており、しかもそれは私のものではなく人から預かったものだった。

カレー沢は激怒した。夫の責任ではない部分もあるが、そんなことは関係なかった。迎えに来てもらうなら常識的な時間で切り上げるのが普通だろと夫を職場に送る車内で懇々と怒った。

夫がそれに何と言ったかは忘れたが、弁解の余地はないのでただ謝っていたと思う。

そして、夫の職場につき、別れ際「本当にごめん、これを」と千円くれた。

ケンカの理由「睡眠時間と仕事時間の圧迫」そして仲直りの仕方は「現金」である。

おのおの参考にされたし

※2016年12月14日に「TOFUFU」で掲載しました

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