医療行為はぽーちゃんからパパへ

中でも、娘がご執心なのが、“お医者さんごっこ”が出来るセット。
注射器、体温計、聴診器、飲み薬等々、一通り揃っている。

「はい、ぽーちゃん、おねつはかりますよー!あー・・・これはおねつありますねー?」
「はい、おちゅうしゃしますよー!」
甲斐甲斐しく世話をする娘。
こんな幼児にとっても、医者という肩書は魅力的なのだろう。
医療関係者の、社会的地位が高いのも頷ける。

熱を測り、注射をし、薬を飲ませ、寝かせる。
目を閉じるぽーちゃん。
心なしか、苦しそうな表情である。
しばしの沈黙の後、
「はい、なおりましたねー!」
ここまでが、ワンセット。

ホッと、胸を撫で下ろしたのも束の間。
生来、よほど体が弱いのか。
あるいは、現代医学では、手に負えぬ難病だったか。
ものの三十秒もせぬ内に、ぽーちゃんは再び発病する。
「はい、おねつはかりますよー!!」
先の見えない、闘病生活。
かくして、我が家のぽーちゃんは“寝たきり生活”と相成る。

人形の心配ばかりもしていられない。
「パパー!病気になってー!!」
怖ろしい。
実験のステージは、モルモットから人間へと。
マッドサイエンティストと化した、娘の一言をきっかけに、僕は、突如、危篤状態に陥る。

ぽーちゃん専用の体温計で熱を測り、注射を打たれ、薬を口に流しこまれる。
全て“ふり”だが。
「だいじょうぶですかー?」
「なおりましたかー?」
尋ねられるままに、
「治りましたよー!」
と答えれば、途端に不機嫌になる娘。
「ちがうでしょ!なおらないでしょ!」
絶望である。
慌てて咳込んで見せ、
「うそうそ!まだ治ってないよー!」
娘を宥めつつ、床に横たわる。

「この子が、どれほど優秀に育ったとしても、医者になることだけは阻止せねば・・・」
固く誓いながら目を閉じれば、腕に生じる何かの感触。
娘の注射器だ。
もう何本目なのか・・・数える気力も失せた。
映画化もされた、スティーブン・キングの名著、「ミザリ―」。
もはや、その世界観。
いずれにせよ、僕が退院する日が訪れるのは、まだまだ先のようである。

Text/山田ルイ53世

※2016年8月2日に「TOFUFU」で掲載しました