乳輪事件とナンプラー事件
某コスメサイトからは「塗るだけで○○」系の商品もよく届いた。だが、こういうのは肌質に合う合わないがある。
一度、塗るだけで痩せるホットジェルとやらを塗った瞬間、「パチパチパチ!」とドンパッチを食べた時のような音がして、皮膚がみるみる赤くなった。慌てて洗い流して事なきを得たが、さらに大変な事態になったこともある。
ある時、塗るだけで乳首がピンク色になるというクリームが届いた。
「乳首の黒い女はあばずれ」との古代の言い伝えがあるが、それが真実なら私の乳首は漆黒でもおかしくないが、ごく一般的なオークルだ。
このオークルがピンクに変わるのか、効果を検証しようと右の乳首と乳輪にクリームを塗り、クレラップを貼って一晩寝かせてみた。
翌朝目覚めると、右の乳輪が倍の面積に腫れあがっていた。
その時は「一生アシンメトリーな乳輪で生きていくのか…」と絶望したが、数日たつと元に戻った。乳輪が黒かろうがデカかろうが、左右非対称よりはずっといい。
このようにいろんな商品が届いたのだが、一番多かったのは、デリケートゾーンの消臭系グッズだった。
「さては股のクサい作家だと思ってるな?」と感じたし、カレー沢先生なら担当を鮮やかに抹殺するところだが、私は「だが、ありがたい」と歓迎していた。
己の股から高濃度のスメルを発している自覚はないが、備えあれば憂いなし。ジャムウ石けん等を使用していたお陰か、今のところマン臭事変は起こっていない。
だが夫と出会う前、「ナンプラー事件」が勃発したことがあった。
当時付き合っていた彼氏とタイ旅行に出かけ、連日タイ料理を食べまくった末にセックスに及んだところ、愛液がナンプラー化していたのだ。
「これ生春巻きにつけたらイケるんじゃ?」というほどのナンプラー臭になっており、「食べ物が人間を作るんだなあ」と食育に想いをはせた。
ちなみに関西弁では、高濃度のスメルを発する女性を「おめが」と呼ぶ(間寛平の「アメマ」と同じ発音)。関西方面に旅行する際は「オメガの時計」の発音には気をつけよう。
オメガはさておき、皮膚がドンパッチになったり乳輪が倍になったりと、いろいろありつつ物書きを続けていられるのは、夫の支えあればこそ。
と、とってつけたような文章だが、実際に感謝しているのだ。
第5回の記事でも書いたように、夫は私の原稿を読まない。
デビュー作『59番目のプロポーズ』など、丸ごと夫をネタにした内容だったが「キミが遠慮して自由に書けなくなると困るから、俺は読まない。何でも好きに書いたらいい」と言ってくれた。
締切前、家事が一切できなくても文句ひとつ言わないし、服もヨレヨレ髪もボサボサ、鏡に映る己のみすぼらしさに息を飲むような状態でも「みすぼらしければみすぼらしいほど、キミの良さが引き立つ」と褒めてくれる。一体どういう意味なのか。
とにかく、いいケツをしているうえに、ケツのアナルもデカくてありがたい。我が家の平和は夫のアナルで成り立っている。
そんな夫殿に対して、私も基本的に文句を言うことはない。
休日、朝と夜の二回稽古に出かけようが「どうぞどうぞ、がんばりなはれや」と見送っている。心底がんばってほしいと応援しているのだが、道着の洗濯だけは大変だ。
夏など嗅いだことのないニオイがするし、かさばるので干すのに場所をとるし、分厚いのでなかなか乾かない。
なので「柔道部の息子をもつお母さんは大変だろうな」と思う。特に思春期の男子はニオイや皮脂の分泌盛り、うちの弟も十代の頃はやたら油っぽくてクサかった。
もし私に息子がいたら、ぜひとも水泳部に入ってほしい。競泳パンツなら洗濯も楽だし場所もとらないし一瞬で乾くし、息子本体も塩素でつけおき洗いできて便利。
『Free!』を観ていてもそんなことばかり考えてしまう、格闘家の妻なのだった。
Text/アルテイシア
※2016年11月15日に「TOFUFU」で掲載しました