現在、わが家のリビングには、クレリの仏壇セットが置かれている。
白で統一したシンプルなデザインで「IKEAで買った」と言っても通用しそうだ。英国製の壁紙にも馴染んでいて、うちを訪れたJJ(熟女)たちにも「ええやんか~うちの親の時もこれにしよ」と好評である。
こちらの料金も葬儀代の62万円に含まれていた。ありがたいのは、クレリに返却も可能という点だ。 やはり仏壇を燃えないゴミの日に出すのは縁起が悪い。バイブやラブドール等もそうだが、捨てづらいものは返却サービスがあると助かる。
父の遺骨を金づちと麺棒で砕いて散骨した後に、仏壇セットも返却しようと思っている。
葬儀の後、父のアパートの処理や遺品整理はKさんが手配してくれた。そのことには心から感謝している。私は父の住んでいた部屋を絶対見たくなかったから。
母が死んだときも、狭いアパートの壁一面にギャル服がかかっていて「ホラーや」と思った。父の部屋はさらにホラーみが強そうで、トラウマ案件になると予想したのだ。
予 想 的 中
後日、父の部屋を訪ねたKさんから「正直、来なくてよかったと思います……」と言われた。
K「部屋の中は思った以上に荒れてました。どうやら、社長は土足で生活してたようです。あとお風呂とトイレも壊れてました」 アル「ヒエ~ッ」
人間、本気でヒエ~ッと思った時にはヒエ~ッという声が出るものだ。部屋の中はゴミ屋敷状態で、足の踏み場もなかったという。生前の父は銭湯で風呂に入って、トイレはバケツに水を汲んで流していたらしい。 その話を聞いて「父はもう生活を投げ出していたんだな」と思った。
お金がなくても、快適に暮らす工夫をしている人はいる。 25歳の女友達は「うちの祖父、おばあさんみたいなおじいさんなんですよ」と話していた。
「元祖オトメンというか、家事スキルが高くて、趣味は料理とベランダ菜園。小さな安アパートに1人暮らしだけど、いつも近所のおばあさんたちが遊びにきて、お菓子を食べながらおしゃべりしてます」
一方、父は身の回りの世話をしてくれる女がいないとダメなジジイだったのだろう。離婚後の父には若い彼女がいたが、金の切れ目が縁の切れ目で去っていったのだろう。 おじいさんが自殺しないためには、家事スキルの向上が必須である。
父の部屋には、昔の仕事関係の書類がダンボール何箱分もあった。それらは全てシュレッダーにかけて処分しないといけない。大量のゴミと遺品の処分に加えて、アパートを解約する前に風呂とトイレを修理しなければならない。
Kさんが尽力してくれて、業者で見積もりをとってくれた。相場より安めの金額だったというものの―――
アルテイシアは『68万円』を支払ったッ!!
ジョジョ風に表現しないとやってられない。この期に及んで金を搾り取りやがってブッ殺すぞ! と言いたいが、相手はもう死んでいる。「ブッ殺すって思ったときは、兄貴ッ! すでに行動は終わっているんだね」とペッシも言っている。
それでも父の遺品のアルバムを見たら、やっぱり胸が痛んだ。家族4人が幸せに笑っている瞬間が確かにあったのだ。
遺品の中にはノートパソコンもあった。Kさんから「派遣でマンションの管理人をしてたときのものです。社長はパソコンなんか触ったことなかったから、僕がよく教えてました。がんばって勉強してましたよ」と聞いたときも、胸が痛んだ。父も必死で生きようとしていたときがあったのだ。
それでももう限界で自殺を選んだなら、それはその人の寿命なのだと思う。