夫が死んでも、案外イケるんじゃないか?/59番目のマリアージュ

 人には向き不向きがある、という話を前回書いた。

「たとえば、私は丁寧な暮らしよりも雑な暮らしが向いている」という文章に、ツイッターで「ほっとした。自分で梅干や味噌を漬けたりDIYで子供の椅子作ったり千歳飴の袋を手作りするママ友たちに圧倒されがちな今の私なので」との感想をもらった。

 千歳飴の袋まで!あんなん不二家の紙のやつでええやないの。
と思う私だが、「雑な暮らしより丁寧な暮らしの方が上」という価値観が存在する。女性は特に「きちんと丁寧に暮らすべき」というプレッシャーを受けがちだ。

 先日、夕飯時にTVをつけていると、女性タレントの自宅訪問する番組をしていた。
そのタレントの部屋は完璧に整理整頓されており、「物を並べる順序も決まっている」と話していた。それを見たスタジオの男性陣は「きちんとした女の子っていいよね」「こういう子と付き合いたい」と絶賛していた。

 それを見ていた夫は一言、「こういう几帳面なタイプは、狙撃されやすい」

アル「狙撃?」
夫「毎日決まった行動をするから、敵に動きを読まれて窓の外から狙撃される。ゴルゴ13にもそんな話があって…」

 という夫の説明に感心していると「こんな常識も知らないなんて大丈夫?」と心配された。
雑な暮らしには“狙撃されにくい”というメリットがあるので、みんな胸を張って雑に生きよう。

 担当アサシン嬢は「精神と時の部屋に住むご友人の話に驚きました!私は物欲の塊なので、ミニマリズムとか絶対無理です」と感想をくれた。
ミニマリズムも部屋に障害物が少ないので、狙撃されやすそうだ。アサシン嬢は、いざという時は部屋に積まれた薄い本が命を救う盾となるだろう。

 私でいうと、マインドフルネスも苦手だ。マインドフルネスとは“今その瞬間”に五感を集中させることらしい。

 私はTVをつけて雑誌を読みながら片手でごはんを食べるし、ウンコする時もトイレに本を持ちこむ。
マインドフルネス的には“今その瞬間のウンコ”に集中すべきだろうが、読書と排便を同時にこなす“マルチタスク型”とも言えなくはない。

 私は子どもの頃から注意力散漫で、落ち着きがなかった。
現在ヨガのレッスンに通っているが、インストラクターに「自分の内側に意識を集中して…」と言われても、つねにキョロキョロしている。そして「あの子、EXILEのツアーTシャツを着てるな、推しは誰だろう?」と雑念でいっぱいだ。

 ある時、ヨガの片鼻呼吸(片方の鼻の穴を指で押さえる鼻呼吸)をしている最中、隣りの女子が鼻づまりだったらしく「ズズズズズ…パチン!」と鼻ちょうちんが割れた。
またある時は、フッフッフッと短く息を吐く呼吸法の最中、隣りの女の子がブッと屁をこいた。

 こんな状況で意識を集中できるか?

 その場は必死で笑いをこらえて、帰宅後「隣りの女の子が屁をこいた!」と夫に報告すると「ポンチさんもこき返した?」と返ってくる。
私はそういう他愛のない会話ができるパートナーを求めていたのだ。