震災と、あばずれ番外地の思い出／59番目のマリアージュ

地震と独身

夫もクソなカードを配られており、父親はDV・浮気・借金の三冠王で、彼が小学生の時に家族を捨てて出て行った。
「父親に捨てられた心の傷とかあるの？」と聞くと「全然。キン肉マンなんて豚と間違って宇宙船から捨てられたんだぞ」とのこと。

その話を仲良しの編集さんにしたら「59番さんにもアルさんが必要だったんでしょうね…」としみじみと言われた。
「愛羅武勇」「愛煮胃汁」とか言わない夫だが「結婚してから家に帰るのが楽しくなった」と話しているので、私も何かの役には立っているのだろう。

そして、私も夫を守りたいと思う。そのためにも、スペランカーみたいにさくっと死ぬわけにはいかない。

あばずれ番外地時代は、ゆきずりの男と寝ることを「危険な目に遭ったらどうするの」と女友達に心配されても「べつにいつ死んでもいいし」と思っていた。

そうやって心配してくれる気持ちは嬉しい。でもまた大きな地震が来た時、あなたが一番に探すのは親きょうだいや恋人でしょ？私は一番ではないでしょ？もし私が死んだら泣くけど、いずれは忘れてしまうでしょ？

つまり私は、全身全霊でいじけていたのだ。18歳の娘さんが地震で死にかけた後にあんなこと言われたら、そらいじけもしますがな。

なので悪いのは私ではなく父親である。しかし「言った本人は忘れてる」が毒親あるあるなので、今さら父親を詰める気はない。そもそももう二度と会う気はない。彼が死にかけても私は駆けつけたりしない。
だって、もらってないものは返せないから。

昔はそんなふうに割り切れなくて苦しんだ。毒親育ちの子どもは「自分はひどい子どもなんじゃないか」と罪悪感に苦しむ。ひどい親にひどい育てられ方をしても「親を捨てていい」「親から逃げていい」と思えなくて「こんな自分は親不孝だ」と自分を責める。

おまけに世間が「育ててもらった恩があるでしょ」「血のつながった家族なんだから」と追い打ちをかけてくる。「あなたが親を選んだのよ、親を幸せにするために生まれたのよ」とほざく御仁もいる。スピリチュアルもたいがいにせえよ。

ほっこりしたけりゃ芋でも食え！と堂々と言えるのは、今の私には血のつながらない家族がいるからだ。
世のお母さんたちが「子どもを残して死ねない」と強くなるように、私も「夫と猫を残して死ねない」と強くなった。

酒井順子さんの『地震と独身』という本がある。東日本大震災の後、メディアは家族の絆を強調していたが、独身者はどうだったのか？
「あの震災で、独身は何を考え、どう動いたのか」…それを知るために、酒井さんが被災地の独身者の声を訪ね歩いたルポだ。

阪神大震災の時に独身で親と絶縁していた私には、身につまされる内容だった。その中でも一番共感したのが、石巻に住む27歳の女性の話だ。

その女性は石巻の職場で震災に遭う。彼女が一番に心配したのは、1人暮らしのマンションに残してきた猫のことだった。

交通は分断されており、同僚から「女性が歩いていくには危なすぎる」と止められるが、彼女はどうにかこうにか3日ぶりに自宅に辿りつく。
マンションの一階は津波にやられてぐじゃぐじゃだったが、二階にある自室は浸水を免れていた。

そして猫さんはというと『ドアを開けたら、無事だったんですよ！お腹を出して、嬉しい時にするみたいにごろんと寝転がっていて。それを見た瞬間には、もう一気に腰が抜けてしまって、猫をだっこして、涙が止まらなくなってしまって、しばらく泣いてましたね』

私もそれを読んで涙が止まらなかったし、今もメッチャ泣いている。
猫は自分でカリカリを引っぱり出して食べていたらしい。そうやって3日間、ずっと飼い主を待っていたのだ。

その後、彼女は猫をキャリーケースに入れて自転車の荷台にガムテープでくくりつけ、2日かけて山形の実家に辿りつく。
無事に辿りつけてよかった…と号泣すると同時に、不安になった。ラーメンマンは体重が10キロもある、はたして運搬できるだろうか？

命をかけて守りたい存在に、種族も性別も血縁も関係ない。

私は「疑似家族」という言葉が好きじゃない。婚姻や血縁関係がある＝家族、という前提を感じるから。大切に思う者同士が集まって暮らせば、それは疑似じゃなく本物の家族だ。

私は老後、ババアのデンデラを築きたいと夢見ているが、その時はババアたちが家族になるだろう。最強のババア軍団がいれば、オバケとか地震とか怖いものがあっても、生きていけると思う。

Text／アルテイシア

次回は＜トヨエツがカマキリに襲われるシーンを観たかった/59番目のマリアージュ＞です。
モラハラ、アル中、サイコパスとの恋愛で散々傷つけられ、もう二度と会いたくないと思う方もいるでしょう。でも、痛い目に遭ったからこそ学ぶことも多いんです。手酷い失恋を重ね、今は幸せになっている女性たちから学べることは。