胎内記憶

そこから四半世紀が過ぎて、私はなんと42歳になった。びっくりだ。まさかここまで生き延びるとは。

30歳の時に夫に出会って、私はあばずれ番外地を去ることになる。セックスで男を釣らなくても、毎晩となりで寝てくれる存在ができたから。生まれて初めて、安心できる寝床を手に入れたから。

そして「これでようやく生きていける」と思った。 未来は予測不能で、また大きな地震が来るかもしれない。その時、夫は私を守ろうとするだろう。もし私がそばにいなくても、必死で探してくれるだろう。

以前、山にハイキングに行った時、バランス感覚ゼロの私が四つん這いで進んでいると、数十匹のハチがブーンと飛んできた。その瞬間、夫は「ボーッとしてると餌食になるぞ!」と私を小脇に抱えるようにして走り出した。

その出来事を振り返り、夫は「あの時は四つん這いのポンチさんがハチの大群に襲われそうになって、間一髪の危機だったなあ!」とイキイキと語っている。
彼は昆虫全般が好きなのだ。かつサバイバル好きの武器オタクでもあり、守るのが得意なのだと思う。

また、夫が猫やトカゲに愛情を注いでいるのを見ると「この人は生き物を育てるのが得意なのだな」と思う。私もそうだが、毒親育ちで「パートナーに育て直されている」と語る人は多い。

子育てに向いてない親にあたったことは、不運だった。親がハズレだったのは私の責任じゃなく、たまたまだ。
胎内記憶とか言ってる人は『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』をイッキ見した方がいい。現在は19シーズンまで放送中だ。

虐待されている子どもが「自分で親を選んだ」「親を幸せにするために生まれてきた」と言われたら、どんな気持ちになるか。そうやって親子の絆をゴリ押しするから、子どもはますます逃げられなくなる。

子どもに親を幸せにする使命なんてない。親の人生に責任を持つ必要なんてないのだ。

スヌーピー先生も「配られたカードで勝負するしかないのさ」と仰っているように、子どもは親を選べない。だが最初にクソみたいなカードを配られても、逆転のチャンスはある。私の場合は59番目にアタリが出た。
過去の自分に「愛して守ってくれる人が現われるから、それまでふんばって生きろよ」と言ってやりたい。