だめんず沼から脱出するために、心に修造じゃなくジョセフを飼おう／59番目のマリアージュ

ジョセフは名言が多い

　アルコール依存症の人に「酒をやめないと死ぬよ」と意見しても「ほんとだ！やめよう！」とはならないだろう。
依存症は「やめたくてもやめられない」病気だ。最初は酒が好きで飲み始めたのが、ジョジョに「酒！飲まずにはいられないッ」と自らの意思で行動をコントロールできなくなっていく。

　そこから抜け出すには「底つき」と「気づき」が必要だという。
本人が「もうこれ以上最悪な状態はない」と感じて「本気でやめなきゃ」と気づくこと。やめてしばらくは激しい禁断症状に苦しむが、飲まないことで回復していく、というプロセスを踏むらしい。

　だめんず恋愛もこれに似ていると思う。頭では「別れた方がいい」とわかっていても、別れられない。どんなに現実がつらくても「彼がいないと生きていけない」という精神状態になってしまう。

　それでも、現実をありのままに見つめてほしい。そのために自分がつらいと感じたこと、相手のこれまでの言動を文章に書き出してみよう。
それで「もし大切な女友達が同じことをされたら？」と想像したら「ふざけんな！！」と頭にくるだろう。

　だめんずにハマる女子は他人のためには怒れるけど、自分のためには怒れない人が多い。そういう人は、自分のために怒る練習をしてほしい。
「てめーの根性はッ！畑に捨てられカビが生えてハエもたからねーカボチャみてえに腐り切ってやがるぜーーッ！！」と噛まずに言えるようになろう。やはりジョセフは名言が多い。

　そして、周りの人はだめんずと付き合う女子を怒らないであげてほしい。

　私も若い頃に経験がある。モラハラDV男と付き合い続ける女友達に「なんで別れないの？」「なんであんな男を好きなの？」「あいつと別れないなら友達やめる！」とキレてしまった。

　大切な友達を傷つける男への怒りが、傷つけられた本人に向かってしまったのだ。それで「あんな男を好きなんておかしいんじゃないの？」とさらに傷つける発言をしてしまったことを、後悔している。

「友達やめる」なんて脅しを使うべきじゃなかった。当時の私は幼稚で未熟だった。
今思えば、彼女は学習性無気力の状態だったのだろう。日常的に暴言と暴力にさらされて「何をやっても無駄だ、自分はここから逃げられない」と動けなくなっていたのだと思う。

　その後、彼女はDV男と別れて幸せな結婚をした。「別れて何年もたつけど、いまだに元彼と同じ車種の車が停まってると、体がすくむんだよね」と話していた。

　今ならわかる。誰だってだめんずにハマる可能性はある。
「100％悪」という中二の考えたキャラみたいな人間はいなくて、良いところもあるから好きになるのだ。優しくされた記憶や楽しかった思い出もあるから、簡単に嫌いになれないのだ。

　誰だって愛されたいし、幸せになりたい。好きになった相手を運命の人だと信じたい。好きな人に好きだと言われたら幸せだし、この幸せが本物であってほしいと願う。
私もそうだった。それが偽物だなんて認めたくなくて、無理して相手に合わせて自分を削って、ボロボロになっていった。

　そこから生還できたのは、見守ってくれる女友達がいたからだ。「自分には帰る場所がある」と思えたから、沼から脱出することができた。

　女友達は失恋温泉ツアーを企画してくれて、伊勢の夫婦岩に向かって「求む、伴侶―！！！！！！」と絶叫する私のとなりで「ええぞええぞ～」とガヤを入れてくれた。
そんな彼女らと過ごすうちに、削られた自尊心が回復していった。「こんなに思ってくれる友達がいるんだから、私はダメじゃない」と立ち直れたのだ。

　かつ、だめんず沼で底つきを経験したから「惚れたハレたはもういい、家族がほしい」「自分を削らずにピッタリ合う、おせんべいの片割れがほしい」と思えた。
それがなかったら、夫に出会っても「ときめかないし、やりたくないし～」とスルーしただろう。全身迷彩服でデートに現われた時点で「無理！」とダッシュで逃げたと思う。

　現在の私は、迷彩柄のせんべいと幸せに暮らしている。
でも自分を傷つけた男を許したわけじゃないし、純粋に死ねばいいと思っている。だからといって、道でバッタリ出くわしても殺したりはしない。
その時は「俺がどくのは道にウンコが落ちている時だけだぜ」とジョセフの台詞をキメて、道を譲ろうと思う。

Text／アルテイシア

次回は＜震災と、あばずれ番外地の思い出／59番目のマリアージュ＞です。
毒親に育てられたと語るアルテイシアさんが「結婚してよかった」と感じたのはいつだったのか？18歳で経験した阪神淡路大震災を機に、安心できる寝床を求め続け、ついに「家族」を手に入れるまでの物語です。