産後、授乳による寝不足&慣れない育児&家事との両立&仕事のペースをいかに取り戻すかという焦りで、気の抜けないボロボロの日々を送っていたときに、わたしの心の励みになっていたのは「息をしているだけで偉い」という言葉でした。
ちゃんとできなくても、ちょっとサボってしまっても、自分を責めることも、へこむこともない。とにかく「息をしているだけで偉い」のだから。産前と同じ生活をするのは到底無理なことだと頭では理解していても、なかなか受け入れることができなかったわたしは、都度そう言い聞かせることで、自分を励ましなだめていたのです。
ところが最近、ひとつのことに気が付きました。「息をしているだけで偉い」と自分を励ましていたあの頃。どんな感じであったかを思い出したときに「生き抜いた、偉い!」と、自分を讃える気にはなれず、それどころか「もうちょっと、頑張れたのではないか」と少しへこむ。逆に「息をする以上のことをしたる!」と思って行動した、いくつかのことを思い出すと、なんだか誇れる気持ちになるのです。
「子持ちなのにそこまでする!?」
例えば、赤子を膝の上に寝かしながらインタビュー取材したテープの文字起こしをしたことや、幼子の預け先が見つからず抱っこ紐で抱えて歌舞伎町の居酒屋を潜入取材で周ったこと、ホームに到着した電車が混雑していることに気が付いた瞬間息子を抱き上げると同時にベビーカーをたたみ(※ボタンひとつでたためるタイプのベビーカーを愛用していたのです)、同行者に「動きがプロすぎる!」と称賛を浴びたこと、夫の海外出張に無理を言って付いて行ったばかりではなく、せっかくだから長い日程を滞在したいと母子ふたりで前乗りしたことetc.
「子持ちなのにそこまでする!?っていうことを、敢えてするの、バカバカしくてウケる~」という克己心で自分を励ましながら、哺乳瓶とお湯の入った水筒、小分けされた粉ミルク、替えのオムツをリュックサックにパンパンに詰めて駆けずりまわったことが、今のわたしをエンパワメントしてくれているというか、「あの、息をするだけでも偉いという言葉に励まされるほど、メンタルが弱っていたときに、頑張っていたわたしってば、偉いじゃん! すごいじゃん! 天才じゃん! あれができたんだから、いまなんて何でもできるじゃん!」という自信の礎になってくれる。
強く生きることは
もちろんいま、「息をするだけで偉い」と思わないと死にそうなメンタルの人もいるだろうし、産後しばらくの間、女性は息をするだけで偉い。それは確かです。けれども、「息をするだけで偉い」というどん底から少しだけ光明が見えたタイミングに、自分のためにした何かの行動は、数年後、数倍の価値を持ってフィードバックされることもまた事実だと思います。強く生きるのはそれなりに難しいことだけど、強く生きることは未来への貯金。
Text/大泉りか