10万円でガチャを回すか否か

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この10万円は祖母にもらったものだ。祖母は今年88才。ここ最近めっきり弱ってしまい、寝てる時間が増えたという。

元々、よく働き、よくしゃべる祖母だったので、正直その姿はショックである。しかし、年だし、俺の気分が暗くなるから元気でいろと言うわけにもいかない。つまり仕方のないことである。

そんな祖母が、私のコラムが新聞に載った(単発仕事で書評を書かせてもらった)お祝いだと、この10万円をくれたのだ。まさかこんなに入っているとは思わず驚いた。

子供のころ、ボットン便所に貯まった肥えを畑に運ぶ祖母の手伝いをして、1000円もらっていた。その100倍の金をウンコの1個も運んでない自分にくれたのは、新聞に載った祝いの他に、何か思うところがあったのでは、と思った。

つまり、これでガチャを回すか否かである。

祖母がどういった気持ちでこの金をくれたのか、考えれば考えるほど「金時を出せ」以外思い浮かばないのだが、問題は出なかったときである。

出たら、全米が泣く美談だが、出なかった時、どうしたら良いか皆目見当もつかない。

作家という想像力が命な仕事をしている身で情けないが「切腹」以外思い浮かばないのである。

金時と土方さんが出せなかった時、彼らに申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、さらにババアにまで詫びなければいけないというのは辛すぎないか。

やはり、この金をガチャに使うことはできない。

金時、不甲斐ないマスターを、ババア、情けない孫を許してほしい。

ババア殿を見て思ったこと

今回のテーマは「一緒に暮らし始めた日」である。

正直覚えていない。覚えてないが、新婚であり、はじめて実家を出たのだから、やはり浮ついていたことは記憶している。

しかし浮ついているぐらいで良いのだ。ババア殿を見て思ったが、家族とはいつか死に別れる。それは夫ともだ。それはとても悲しいことだが、結婚するときにはあまりに先すぎて、想像できない。というか、浮ついてるからそんな日は来ないようにすら思えるし、今でも想像できない

むしろそう思えず、

リアルに死別の日が想像できたら、私は結婚なんてできなかったと思う。

だがそこまで想像力が至らなかったおかげで「結婚」できたのだ。思慮が浅いというのも悪いことばかりではないのかもしれない。

Text/カレー沢薫