夫は、知らなかった

デビルマン [DVD]

ところで、夫の映画DVD鑑賞ブームで気づいたことがある。

ある日、夫が『アウトレイジ』の第一作目を借りてきた。すでに『アウトレイジ 最終章』が公開された後にである。

「アウトレイジじゃん」と言うと「会社の人に勧められた。ヤクザ映画らしい」という返答が返ってきた。

カルチャーショックである。

日本に、アウトレイジに関してここまで知識がない男子、いや、人間が存在するとは夢にも思わなかったのだ。

私も見たことはないが、大体のあらすじや、どんなシーンがあるか、ぐらいは把握している。

そういえば、数年前、夫が突然『デビルマン』を借りてきたことがある。

デビルマンと言えば「クソ邦画界を終わらせた」でお馴染み、新しいクソ邦画が現れたら「とりあえずデビルマンと比べてどうか」で論ぜられる、もはや「デビルマン」という単位にもなっている、クソ邦画の金字塔である。

見たことがない人でも「すごいクソだとは存じ上げている」と言う、有名作品だ。

よって夫が借りてきたときも、怖いもの見たさで借りてきたのだと思い、すでに劇場やDVDでデビルマンを何回も見ている、デビルマンのクソぶりを愛してやまない生粋のデビルマン厨である私は「おいおい、私はデビルマンにはうるさいぜ?クソ部分解説の副音声いる?」というようなことを言ったのだが、ここで驚愕の事実が発覚した。

夫はデビルマンのことを知らなかった。

ただ、レンタル屋で見かけて、おもしろそうだったから借りた、とのことだった。

「この人はもしや」と思ったが、先日「実写版宇宙戦艦ヤマト」を借りてきたのを見た瞬間確信に変わった。

「この人はネットで情報を集めない」

全てに関してかはわからないが、少なくとも映画に関しては一切情報収集をすることがないようだ。

逆に言うと「毒されてない」と言える。他人のクソだというレビューを見て「クソなら見ないで置こう」と判断するのは、賢明とも言えるが、他人の意見に流されているとも言える。自分の目で見なければ本当にクソかわからないし、もしかしたら黄金かもしれないのだ。

言葉の意味としては全く同じになってしまったが、情報を得るのが簡単すぎて「自分で確かめる」ということを我々忘れてはいないか、と夫の姿をみて気づかされた。

世間の評価などものともせずヤマトを見始めた夫を部屋に残し、私はその場を去った。『八甲田山』を見るからだ。

数時間後ヤマトを見終わった夫に「ヤマトおもしろかった?」と聞いた。

「いや」

最初からクソだという目で見ると何でもクソに見えるが、無垢な目で見てもダメな時はダメなようだ。

Text/カレー沢薫