お互いの誘いを完全無視する「夫婦のブーム」/カレー沢薫

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今回のテーマは「夫婦のブーム」だ。

今アツい、夫婦の遊びや趣味を教えろとのことだ。

「俺たちは一緒に遊ばない」

以上だ。

逆に聞きたいが、貴様らは、そんなに夫婦同時に何かにはまるものなのか、でかい穴とかに。

このように、私が、「更年期序章~はじまり~」みたいな謎の怒り方をするのが見えたのか、担当が「我が家は、休日に夫婦でお酒を飲みながらNetflixを見ることがブームです」と聞いてもいない手前ら夫婦のブームを教えてくれた。

そういえば、最近夫もDVDを見るのがブームである。週末になると、何かと映画DVDを借りて見ている。

普通にリビングのテレビで見ているので、もちろん一緒に見ることもできる。

だが見ない。

その間、もう300回は見ている『八甲田山』など、俺様は俺様の見たいものを見るからだ。

実はNetflixが何かよく知らないのだが、担当夫婦も両者同時に「やっぱ俺たちにたりないのはネトフリだよな…」などと言い出す、気持ち悪いシンクロはしなかったはずだ。

どちらかがNetflix入ろうぜ、と言い出し、これがおもしろいぜ、一緒に見ようぜ、と誘う形で「一緒にNetflixを見るのがブーム」になったと思われる。

それを考えると、我々夫婦に共通の趣味がない理由がわかった。「お互い誘いを完全無視」だからだ。

「これ面白いから、あなたもどうか」という誘いを両者、完無視なのである。

共通の趣味がないながらも、ソシャゲをやるという共通点はあるので、私も「FGOというゲームがおもしろくてね」と誘ったことがあるが、まあ無視である。

もしかしたら「ガチャで麻婆豆腐が出る」と言う痛恨のプレゼンミスがあったせいかもしれないが、それにしても始めるそぶりすらない。

逆に夫がやっているソシャゲを「あなたもやったら?」と言われたこともあるが、当然の如くシカトだ。

またお互い「ご相伴」という発想がない。片方が何かで遊んでいても「自分も一緒に」とならないのだ。

「おっ楽しそうでござるな!じゃあ拙者は自分の部屋で八甲田山を見る!」なのである。

お互いがお互いのブームに寄せることが一切ないので、夫婦のブームが起こりようがないのだ。

よって今でも、我々夫婦間で一番アツいのは「気候の話」だ。

特に冬はアツい、寒いけどアツい。

何せ冬というのは漏れなく朝寒い。よって起きた瞬間、お互い「寒い」と言う。

朝からいきなり気の合う夫婦ぶりである。2人同時に同じことを言うなんて、やはり夫婦というのは段々似てくるもんなんすかね、というノロケにも使える。

ネトフリはいつか消滅するかもしれないが、天気の話は地球か太陽が爆発するまでで出来ると思うので、ある意味、担当夫婦より、長持ちでコスパの良い高度な共通の趣味をもっていると言っていい。