ドSという名の奴隷

とはいえ中学生ですから! まだ交際経験もない赤ちゃんみたいな生き物が、ドSこと、自分の思い通りに動く人間を夢見るのは、まぁセーフだよね。若いし。でも! 現在の私にもそういう部分があるんじゃない? って気がしてくる。流石に好きなタイプがドSではないけど、Sに求めていたことを、今も相手に求めてしまっている瞬間が、ないとは言い切れない。

それは、壁ドンとかそういう胸キュンに関することではなくて、もっとリアルなもの。例えば「今日疲れてるからご飯作っておいてほしかった」とか「なんか元気ないから楽しい提案してほしかった」とか。そんなめちゃくちゃ自分本位な不満を持ってしまう時がある。望みがあるなら自分から言うべきなのに。「今日疲れてるから、ご飯やってくれる?」って、話かければ済む話だ。

なのに、私の中にはまだドSという奴隷を求める血が流れているようで「何も言わなくても天才的な洞察力で私の望みを叶えよ」っていうやばい欲求が疼いてしまう時がある。これって、よくないよな。相手が嫌なことをしてきて怒るのは仕方ないけど、相手が思い通りに動いてくれなくて怒るのは頭が高すぎってもんだ。私は今まで頭が高すぎた。

「終電がない」しか言えない肉塊になることで家に導かせようとしていたあの頃…久々の休みだからどこかにお出かけしたいと思ってるのに言わないで、家にいるのが不愉快だって雰囲気だけを出し続けておでかけの誘いを待ったあの日…あぁ…相手は市丸ギンじゃないのに…この世は逆ハーレムで出来ていないし、他人は私のお人形ではないのだ。それは超当たり前。

「なんで〇〇してくれないの?」って思ってしまうのは良くない。勇気を相手任せにするのは卑怯だ。「こんなお願いしたら嫌われるかな」って不安でも、それを望むなら自分から勇気を出すべきで、勇気も出さないくせに相手に不満を持つのは違う。

推しに叱ってもらいましょう

かつて思い描いていた、あの完璧なドSは自分の頭の中にしかいなくて、そのことはわかっているはずなのに、現実にいる他人にも、自分にとっての完璧さを求めてしまう。さも、相手の思いやりが足りないみたいな言い方で、大切な人を責めてしまう。こういう狡いところがあるなぁ。

それはたぶん私だけじゃなくて、多くの人にあると思う。相手の思いやりが足りないんじゃないのに。本当は、相手が自分の思い通りにならなくて怒っているだけなのに、それに気付けず怒ってしまう。それって超子供っぽい。だから、やめようと思う。これからはパートナーに腹が立ったらまず脳内に市丸ギンを召喚して、質問してもらう。

「あんた今、俺と夫を比べてへん? 俺ならこうしてくれるのにみたいな角度で怒ってるやろ?」

市丸ギンの射抜くような目を見たら、嘘はつけない。

「私、あなたと夫を比べてました」
「せやな。それは?」
「間違いです」
「せやな」

こうすれば、きっと治せる。中学生で患った悪癖は、中学生で治せばいいのだ。皆さんも、誰かに怒りそうになったらまず、脳内にかつての推しを召喚して己に問うてみてください。その怒りは本物か? 自分勝手になってない? これができれば、いつかは逆ハーレムも夢じゃない。

TEXT/長井短

「長井短の内緒にしといて」が書籍化!

舞台やテレビドラマ、映画、ラジオ、雑誌、バラエティ番組など幅広く活躍する長井短さんの本連載が書籍化!

恋愛、モテ、マウンティング等のテーマについて綴ったコラムはもちろん、単行本の特別企画として完全撮り下ろし写真、ページを切り取って作る「ミニ本」、なつかしのプロフィール帳なども用意されている楽しい一冊です。

前後の連載記事