「目黒あたりに住んでいる、26歳くらいのOLさんって、ちょうどいいよな」と、当時の恋人がふと漏らしたとき、何を言いたいのかさっぱりわからずに、わたしは「ちょうどいいって何が?」と問い直しました。そこで彼が口にしたのは「付き合いたい相手として。23歳とかだと若すぎるけど、26歳なら分別もそれなりあるところと、目黒っていうのも、なんかいい」という台詞でした。
「ん?」と思ったものの聞き流したのは、その元恋人は35歳にしてはわりと顔とスタイルがよくて、11歳才年下だったわたしは彼と真剣に付き合っていたし、そして “目黒に住んでいる26歳くらいのOLさん”という属性は、彼を含むある一部の男性たちにとっては魅力的な存在なのかもしれないとも考えたからです。
「何を言っているのかな?」
しかし、その彼の発言を今でもしっかりと覚えているのは、「この人はいったい、何を言っているのだろうか」とも思ったからです。心の中で考えたことが筒抜けになってそのまま口から出てきてしまうサトラレと化した今のわたしであれば「おおよそ10歳も年下の女性が、付き合う相手としてちょうどいいとか、さらに20歳半ばの女性に対して35歳のあなたが“若すぎない、分別がある”とか、何を言っているのかな?」と返すに違いないのだけれど、当時はまだ脳と口は直結していなかったし、年上の男性に率直な意見を言うのは失礼ではないかという考えもあった。
そういう意味では、“26歳の分別ある女性”とならば、フラットな関係を築けると考える彼は、能天気ではあるものの、年齢にはむしろ囚われておらず、おおよそ10歳ほども年齢差がある時点でイコール不均衡だと考えるわたしのほうが、年齢差というものを気にする人間なのかもしれません。
“年上の男性”の気分を悪くさせるような発言ができなかったあの頃から、随分と月日が経ち、相手がいくつであろうが、おかしな言動にはクリティカルな態度を取れるようになった今であれば、例え10歳、20歳、30歳年上の男性とでも、堂々フラットに付き合える気もします。
目黒の26歳OLじゃないわたしに、なぜ?
しかし、そもそも“彼女”という立場があって、かつ目黒に住んでいるわけでもなければ、26歳でもないわたしに対して、彼はなぜに、そんなことを言ったのか。ただ迂闊なだけかもしれないし、ややこしくも彼なりに、なにかわたしに伝えたいことがあったのかもしれないし、もしかして、ただただわたしを傷つけたかっただけかもしれないということを、山の手線で内回りに乗ったときに、ふと思い出します。
Text/大泉りか