ハッピーエンドに託したトレンディドラマの可能性
『東ラブ』の最終回は、カンチの故郷である愛媛県をリカが訪れ、彼の思い出の地をふたりで巡る話です。
最後の別れの舞台は、地元の駅。ところが、カンチが駅に駆けつけたとき、リカはすでに一本前の電車で発ったあとでした。
ホームには「バイバイ、カンチ」と書かれたハンカチだけが残され、ふたりはそのまま会うことはありませんでした。
その後、カンチは結局、物語の恋敵役だったさとみと結婚します。
ハッピーエンドが定石だったトレンディドラマの中で、これはかなり異色の結末でした。
つまり、チャラチャラと浮ついたトレンディドラマ的な恋愛(それはバブル期のムードそのものの比喩でもあります)に、はっきりと“終わり”があることを描いたのです。
それに対して『離婚』は、言うまでもなく“終わりのその後”を描いたドラマでした。
最終回、ふたりは両親に離婚の報告をするため、静岡県の富士宮にある結夏の実家を訪れます。
そう、なんとどちらの最終回も、相手の生まれ育った土地に行き、そのルーツに触れる話。
ふたりが別れる最後の場所が、地元の駅ということまで『東ラブ』と同じです。
しかし決定的に違ったのは、電車が発車するまさにそのとき、それまで煮え切らず優柔不断だった光生が、乗っている電車の中へ結夏を引きこんだこと。
結局、同じ電車に乗って東京へ戻ったふたりは、夫婦として家族としてやり直すことを決めます。
つまり、“終わりのその後”に、“これから”という希望を用意したのです。
『東ラブ』の結末が、バブル期の浮かれたトレンディドラマに対するカウンターだったと考えると、坂元氏が『離婚』の結末をあえてハッピーエンドにした理由も、なんとなくわかる気がします。
時代による価値観の変容や、あるいは深刻な天変地異を通して、私たちはあらゆる意味で理想の家族の形を失ってしまいました。
そんな2013年といういまこの時代だからこそ、光生と結夏が新しい家族を作り直すハッピーエンドは、絶対にそうしなければならなかった切実な結末に思えてくるのです。
ダメな時代の象徴として、笑い飛ばされることの多いトレンディドラマ。
しかし『最高の離婚』は、『東京ラブストーリー』の設定や構造、手法をあえてなぞることで、“時代の気分を描く”というトレンディドラマの可能性を、見事に現代に復権してみせたのです。
Text/福田フクスケ