関係に名前があれば、行動が取りやすくなる

思い返せば、別の男と“ラブい関係”になったときもそう。カタチにこだわり、しくじった。

二人で花園神社のお祭りに行ったり、合鍵を持ったり、変なあだ名で呼び合ったり。他人から見れば、どの瞬間を切り取ってもカップルだったが、実際は違う。

初めは「それでもいい」「一緒にいられることが幸せ」と言い聞かせていたけれど、次第にこの人と自分の関係を表す、言葉やカタチが欲しくなった。それがセフレならば、それで構わないから。

そこまでして、私がカタチにこだわったのは、関係に名前をつけることで、行動が取りやすくなるからだった。

しょうもない話をするが、関係がセフレならば、私は相手の家に泊まりに行っても、歯ブラシは置いていかないし、翌朝には即帰る。でも、“デートを重ねて、合鍵を持っていて、変なあだ名で呼び合っている彼氏じゃない人”に対しては、身のこなし方が分からなかった。「彼女ヅラだと思われないかな」「彼女ではないし……」なんて、尻込みしてしまう自分はダサくて。

自分らしく振る舞うための安心感が必要だった。

そんなことを何一つとして伝えることもできないまま、彼とは疎遠になっていった。こんなエゴな想いを伝えて、愛される自信も嫌われる勇気もなかったから。

こんな調子でグレーを上手に泳げなくて、白か黒か明確にしようとばかりしてきたけれど、結局のところそれってラクをしてきただけだった。答えを二極化して、そこに自分の想いを無理やり寄せて。
でも、無理やり寄せたもんだから、相手からの一通のLINEや友人の一言で、また簡単に考えは変わってしまう。

世の中には、答えが白でも黒でもなく、グレーな事柄がたくさんあり、グレーは曇り空の色で極めて安心感のない色だが、グレーの中にこそたくさんの真実や大切にすべきものがある。そんなことを今になって思う。

拝啓、あの頃の私へ。

あなたは安心感のある恋を求めて、カタチにこだわりつづけているけれど、人から貰える安心感なんて、本当の安心感ではないんだよ。誰といても自分らしい身のこなしができる安心感は、自分で作り上げる自信にしかないんだよ。

そのことに気付けたのは、あなたのおかげです。
あれもそれも、無駄な恋じゃなかったよ。

Text/妹尾ユウカ
初出:2019.06.20