出会ってしまえば、あとは全然変わらんのよ
卒業後は疎遠な時期もあったものの、年末年始や同窓会で顔を合わせてきた。
モリちゃんは東大にギリギリで落ち、でも滑り止めの大学で国家資格の勉強をして、それもまたギリギリで落ちて、卒業後も勉強を続けて、それでも毎回本当にあと一歩というところでどうしてもうまくいかず、体を壊して実家に帰ったと聞いていた。そこに来てのお見合い、1ヶ月での婚約、饅頭投げである。
祝いたい気持ちはもちろんある。でもあまりに急すぎることだったから、その結婚の真意をどうしても勘ぐってしまう。
お見合いで1か月?
相手の人のこと、本当に好きなの?
去年の年末はボロボロでガラガラの福井シネマで『杉原千畝 スギハラチウネ』を一緒に観たじゃん。いい人も特にいないって、そのときは。
「こんなに自分が大切にされる人生があるなんて思わんかったわ」
モリちゃんの言葉は、薄暗い勘ぐりをした私の横っ面をはたき倒した。
彼との馴れそめを聞いたのは式からしばらく経ってからで、口から飛び出すのは紛れもないノロケの数々だった。仲人は同じ町内に住むおっちゃんだったこと。初めて会ったときの挨拶がとても大きな声で、誠実そうだと思えたこと。プロポーズまでの1か月は毎日のように会っていたので、短い気はいっさいしないこと。
「お互いそんなに恋愛経験なかったから、あちこち行っては『私たちロマンチックなことしとる!』って一緒にはしゃいだりね。出会ってしまえば、あとは全然変わらんのよ」
プロポーズで渡された108本の薔薇は永久の意味らしい。モリちゃんの好きなピンク色で統一されていた。
実家に戻ってから趣味ではじめたお琴に熱中して、あっという間に師範代の資格をとってしまったことや、落ち着いたら自分の教室を開くつもりであることも聞いた。
耳に付きやすい言葉や数字ばかりを拾ってつないで、モリちゃんをネガティブな型に落とし込もうとしていたのは私のほうだった。
出会ってしまえば、何もかも関係ない。お琴の楽しさを語るモリちゃんの背中は10年経ってもピンと伸びていた。
Text/いつか床子
- 1
- 2