“家族”を疑い続ける少女は家を出て、“レンタル家族”にハマってゆく『紀子の食卓』

最後に紹介するのは、日本に留まらず世界中にその鬼才ぶりを認められている園子温監督の“青春”映画。
“”をつけたのは当然、この作品が単なる青春映画ではないからです。

 紀子の食卓 映画 3選 まとめ 紀子の食卓 製作委員会

ストーリー

17歳の平凡な高校生、紀子(吹石一恵)は息苦しい家庭と田舎でくすぶっている自分から逃れたい一心でいた。
ある日、、インターネットで“廃墟ドットコム”という女の子の集団のサイトを見つけたことがきっかけで上京する。そこでクミコ(つぐみ)と出会い、彼女が経営する「レンタル家族」に没頭していく。
しかし、紀子に続いて実の妹である次女のユカ(吉高由里子)が突然家を出てから母・妙子が自殺してしまい、父・徹三は紀子とユカの行方を捜し、彼女らが所属する集団の調査を始める――。

「あなたはあなたの関係者ですか?」

そりゃ、関係者でしょ。自分自身なんだから。なんて即答したいところですが、そうはさせないのがこの映画。
紀子は東京進学を父から反対され、その反動で“廃墟ドットコム”の扉を開いた。やがて単身上京。
彼女の思春期特有の衝動と苛立ちは、身に覚えのある人も多いはず。

映画の切り口は至って斬新。紀子、ユカ、徹三の三人のそれぞれの視点で物語は進んでいく。
誰もが自分が間違っているなんて思っていない。家族を内から外から見つめ直すという、園子温監督の狂気じみた観察眼が滲み出ている。

そして“廃墟ドットコム”のサイト上に映し出される「あなたはあなたの関係者ですか?」という問い。
心が身体に収まらず、自己イメージが掴めていない者にとって、その言葉は妙に印象的でずっと脳裏に残るはず。
「関係者です!」なんて即答させてくれない疑問が、自分自身にあるのです。

生きるとはつまり、“演じる”ということ

10代、どれほどのウソをつき続けてきただろう。
周囲と波長を合わせるために、自分のキャラクターを演じることを余儀なくされてきた。それは家族にだって言える。

生まれたときから、初期設定として“家族”はある。
どんな幸福な家庭にも悲惨な家庭にも、最初から息子/娘といった称号が与えられる。
その役柄に沿い、生きていくことは果たして正しいのでしょうか?  園子温監督は誰もが見過ごしてきた、役柄に沿って生きるという“常識”に首を傾げる。

そこで「レンタル家族」というお互いが演じることで関係を形成する団体を登場させ、現実世界の“常識”を覆そうとする。
思春期から地続きのまま、レンタルでも何でもないのになぜか今でも演じ続けている自分がいる。
だからこそ、息を呑むクライマックスと予想外の着地点に、あの頃の自分が抱いた疑問を突きつけられるのです。

紀子の食卓 映画 3選 まとめ

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発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント

大人になると、自意識は社会から抹殺されていき、繊細は言い訳に過ぎず、演じるのが当たり前になっていく。
自意識の高いイーニドも、繊細な五人姉妹も、演じる紀子もいつかは大人になる。
期間限定の“少女”時代にくすぶっていても、こじらせていても、いつか必ず終わりが来る。

この三本はあの頃のイタイ自分と再会する装置にも、懐かしくて感慨に耽る記憶にもなる。
逆に、全くの新しい世界にも感じられるでしょう。
過去・未来に囚われずに描かれるストーリーのように、自意識の殻を突き破って大胆に、そして自分に正直に生きていきたいとも思わせるかもしれませんし、そうじゃないかもしれない。

登場人物たちが自分自身の映し鏡かどうかを試される。
その鏡に「あなたはあなたの関係者ですか?」と尋ねられたら、あなたはどう答えるでしょうか?

Text/たけうちんぐ

初出:2013.07.09