異常なまでに“音”にこだわった、少女のインナーワールドの映像化

イノセント・ガーデン パク・チャヌク ミア・ワシコウスカ ニコール・キッドマン マシュー・グード 20世紀フォックス映画 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 蜘蛛が地を這う音なんて、聞いたことがあるだろうか。
本作ではあらゆる場面で音の演出が効果的に使われ、インディアの心理状態を巧妙に描いているのです。

 普段、映画の外で生活していてもスプーンと皿がぶつかり合う音や、激しくドアが閉まる音、誰かの吐息に敏感に反応してしまうことがある。それは、感覚が研ぎ澄まされる深夜、失恋した時、号泣した後、そして思春期。

 何度も聞いたことがある音でも、場面によっては全然違う音に聞こえた覚えがあるなら、この映画のインディアが聴く音に共感を覚えるに違いない。
“音に共感”だなんて、パク・チャヌクが初めて教えてくれるわけですよ。全身を凍り付かせるほど強調した音の数々に、思わず戦慄を覚えてしまう。

 オープニングの連続するストップモーション。
誕生日プレゼントで贈られる箱に囲まれたインディア。
殺害シーンと交互に繰り出されるシャワーシーン。

 音とともに、暴力にも似た挑発的な映像の編集が凄まじい。
観始めた頃は断片的な映像の連続で、全体が見えづらいかも知れない。
だけど、やがてパズルのようにピースがはまっていく。
その欠片がぼんやりとした風景ではなく、エヴィやチャーリーなど登場人物の明確な表情が映し出されたときに、映画の面白さは一気に加速する。

 映像と音の無限の表現力を秘めた本作。女の子の脳内は、まだ映像で開拓する余地があるということだろう。
それほどまで無限の妄想力を秘めた感性に、「女子ってめんどくさいなあ」とも思えるし、神秘的にすら感じる。
女に生まれたことを呪うか、祝うかは観る者が決めるのです。

あの頃に聞こえた“音”は、今でも聞こえるだろうか

 感情が露になり、気持ちが高ぶっているときは、どうして音に敏感になるんだろう。
ケンカして険悪になった母がドアを閉める音、失恋したての頃に鳴る携帯の着信音、眠れない夜のカラスの鳴き声、そして自分の溜息。

 それらの“音”が物語へと引きずり込むとき、かつて少女だった頃の自分に戻るかもしれない。
インディアの耳に鳴る音が、あらゆる人の成長期と思春期と現在を刺激するはずです。

 大人へ背伸びし、男の子を怖れ、性に嫌悪する。
が、それでも大人にはなれず、男を愛してしまい、性に恋焦がれていく少女時代の面影がすべて映し出される。 そしてその庭に、18歳の少女の瞳に、パク・チャヌク監督の狂気が宿っているのです。

 映像表現の可能性を模索し続ける韓国映画界の巨匠のこのハリウッドデビュー作で、少女の本性を体感してもらいたいです。

5月31日(金)TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他 全国ロードショー

監督:パク・チャヌク
キャスト:ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード
配給:20世紀フォックス映画
2012年/アメリカ映画/99分/PG12
URL:映画『イノセント・ガーデン』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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