美とプライドに執着した女の最終地点はあまりにも惨たらしい『ヘルター・スケルター』

最後に紹介するのは、もはや誰もがご存知であろう本作。
岡崎京子の同名コミックを蜷川実花監督が圧倒的な極彩色で映画化した、このテーマには絶対に欠かせないグロテスクで繊細な物語です。

ヘルタースケルター 2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会 岡崎京子/祥伝社

ストーリー

トップモデルのりりこ(沢尻エリカ)は若者のカリスマ。“今、なりたい顔ナンバーワン”として雑誌やテレビに引っ張りだこの彼女だが、その正体は全身整形。つぎはぎだらけの身体は蝕み始め、ライバルのモデルが出現したことから彼女の精神が歪んでいく。
幻覚に苦しみ、それでも美に執着するりりこの運命とは――。

その身体の成分、100%がプライド

人気を保つために、カリスマであるために、身を滅ぼしてまで美にこだわるりりこはとにかく痛々しくて、見ていられない。
若さが時限爆弾であるかのように、りりこの秒針はカチコチと早まってていく。それでも欲望に従順なりりこになぜか惹かれてしまうのは、時折少女のように泣き崩れる姿に彼女の本性が見えてくるからなのかも知れない。
蜷川実花特有の美しい極彩色がこの惨たらしい物語をフォローしてくれるかと思いきや、なぜかより一層生々しくグロテスクに映ります。

りりこが好む、流血のような赤色は、まさに彼女に流れる血そのもの。彼女はウソを隠すために、唯一のホンモノである体内の血に似た赤色をまとうのです。
終盤に流れる、見事なまでに鮮やかなホンモノの血には、思わず言葉を無くしました。その鮮烈な赤い映像は、まるで自分の血を見ているかのような錯覚を起こさせたのです。

誰もが“美”にこだわって生きている

誰だって女に生まれた以上は愛されたい。人に見られたい。自分よりちやほやされている女がいたら悔しい。
自分の存在が希薄になるにつれ、気が狂ったように人に怒りをぶつけるりりこ。でも、実はそれほどおかしい女じゃないかもしれない。
幾度となく挿入される渋谷の女子高生たちのカット。流行の雑誌に群がり、噂話に花を咲かせ、プリクラを撮る。毎日のアイメイク。つけまつげ。プリクラの目デカ効果。その大きくなりすぎた目だって、りりこと同じ肥大したプライドだ、というのは言いすぎでしょうか。

りりこが死ぬ気で追い求めた“美”はあっという間に忘れ去られ、いつしかみんな新しい美に興味を移らせる。流行は残酷。そんなものに執着するのはバカげていると思っても、りりこの姿はどこにでもいる美にこだわりが強い女たちを映す映鏡になっているのです。
崩壊していくりりこの姿を笑える女性は、きっと一人もいないのではないでしょうか。

ヘルタースケルター

『ヘルタースケルター』 スペシャル・エディション(2枚組)
価格 4,095円 (税込)
販売元:ハピネット

以上、女の顔にまつわる映画三本を紹介しました。

「超冷たいけどイケメンの人か、ブサイクだけど超優しい人。付き合うならどっち?」
友達とよく、こういった究極の二択を出し合ったりすることがあると思います。

人間はその2択だけじゃないからこそ、これらの映画は何択にも広がる価値観と美を提示します。
その一部はちょっとした美談に思えるかも知れない。顔が良いほうが得するに決まっています。
だけど、その“得”の先の先を描いてくれる映画はさすがです。人生では、その先の先を今のところ見せてくれませんから。

それを見届けたところで、「女は顔が命なのか?」という問題に改めてあなたらしい答えを出していただければ幸いです。

Text/たけうちんぐ

初出:2013.05.22