愛が嘘を呼び、嘘が血を流す

 観終わった後は衝撃でしばらく脳が機能しない。叩きつけられる。
その後、親子丼を食べてしまった。なぜか血が混じったような味がしてマズい。それでもお腹が一杯になってしまう。

 血の味のする「親子」丼。まさにこの映画でした。
花は淳悟を愛するがあまり、流氷の海辺でとんでもない罪を背負ってしまう。それを庇おうとする淳悟の嘘がまた新たな罪を生み、それをまた花が庇う。それらの罪には大量の血が流れていく。二人が抱き合うシーンに降り掛かる血と同じように。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 熊切和嘉 浅野忠信 二階堂ふみ 高良健吾 藤竜也 日活 私の男 父 娘 恋人 孤独感 カップル 愛 罪 2014「私の男」製作委員会

 愛は決して美しいだけじゃない。性器が精子と尿の二つを発するように、美しい物と汚い物が混在する。血は、花のアソコから流れる血でもある。二人の愛が多くの嘘をつき続け、その嘘を貫き通すために流れるものなのでしょう。
日が暮れる頃に鳴るチャイムと、電車の走る音。二人の日常を壊すように鳴る二つ。そこで引き裂かれるのは二人ではなくて、二人と世界の関係。太陽と月と世間に背き、罪を重ねるたびに二人の距離は近くなっていく。

「後悔なんてしない。好きな人にも、させたくない」

 花のセリフが胸を締め付ける。愛を守ることが攻撃になる。孤独を埋め合わすことが悲劇を連鎖し、罪が罪を生む。この悪循環を、ただ見守るしか術がないのです。

全部、二階堂ふみのもんだ

 関係なんて大体が希薄で、時間が経てば変わってしまう。かつてラブラブだったカップルも時間には勝てない。多くの両親の現状がそれを教えてくれる。

 この映画の二人はそんな生易しい関係じゃない。それも孤独が全部悪い。空虚が大きければ大きいほど関係は“永遠”に近づいていき、その意味のまま言いかえると“牢獄”でしかない。
お互いが囚われの身。どれだけ世間から逃げても、淳悟は花から、花は淳悟からは逃れられない。淳悟は花のすべてを知っていて、花もまた淳悟のすべてを知る。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 熊切和嘉 浅野忠信 二階堂ふみ 高良健吾 藤竜也 日活 私の男 父 娘 恋人 孤独感 カップル 愛 罪 2014「私の男」製作委員会

「全部、私のもんだ」

 友達、恋人、父親。全部が、淳悟。この世に存在するすべての男女関係を淳悟で築いてしまった花は、二階堂ふみ以外に演じられる人はいない。
その目、表情、艶やかさ。今までに観たことがない。全編、二階堂ふみという女優に胸ぐらを掴まれてしまう。何を想っても考えても、淳悟のようにまるですべてを見透かされてしまう。

「私の男」とはスクリーンの前にいる男全員になる。その幼さも大人っぽさも武器でしかない。まるで生まれた時から花が二階堂ふみであったかのよう。彼女が浴びる返り血の匂いがこちらにも漂ってくる。
流氷、濡れ場、そしてラストシーン。何もかも、その目がヤバすぎる。

「全部、二階堂ふみのもんだ」

 それを知るだけでも充分強烈で、凄まじい映画なのです。